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1.黎明に起つ 2.城をひとつ |
「黎明に起つ」 ★☆ | |
2013/12/23 |
関東の地に覇権を唱えた北条早雲の生涯を描いた歴史時代小説。 伊東潤作品を読むのは初めてですが、これまで何度も名前に触れようともその足跡を殆ど知らなかった北条早雲を描いた歴史小説ということで手に取った次第。 もっとも北条早雲、そうした呼び名で呼ばれたことはなく、元々の名前は伊勢新九郎、得度して早雲庵宗瑞。「北条」という名前はその嫡男=氏綱からだそうです。 新九郎が成長した時代は足利将軍・義政の治世下。しかしその後半から将軍位の後継争いから内乱が激しくなり、故郷の備中を捨てて新九郎が向かった関東でも堀越公方足利家と関東管領上杉一族が内部対立し相克するといった混乱状態。 そうした中、武士のための足利体制から脱却し、新九郎は民のための新しい国造りを目指す、というのが本作品のコンセプト。 信玄、謙信、信長と各地で戦国大名が勢力を競い合った時代から比べると、小勢力がその時の事情で集合離反を繰り返しお互いに足を引っ張り合っているだけと思われる状況で何とも張り合いがないという印象で、この時代が余り書かれることのなかった理由が納得できる気がします。 それでも上杉、長尾、武田という名前も登場し、足利体制が崩壊し下剋上を経て戦国時代へと移行する過渡期、あるいは黎明期であることがよく感じられます。 本作品自体は、地味で実直な歴史小説といった印象、エンターテインメント性にはやや欠けています。関東の覇者=北条家の経緯を紐解くことに興味がないと物足りないかもしれません。 1.雲心月性/2.雲蒸竜変/3.雲煙縹渺 |
2. | |
「城をひとつ」 ★☆ |
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家伝の調略術をもって北条氏四代に仕え、支えた大藤一族五代の活躍を連作風に描いた長編歴史小説。 初代北条早雲が死去して4年後、亡き早雲との縁を頼りに2代氏綱の元を訪ねてきたのは大藤信基、57歳。 自らの能力を披見する例として口に上せたのが、「城をひとつ、お取りすればよろしいか」というセリフ。 その時から始まり、3代氏康・4代氏政と北条氏四代に亘って仕えた信基を始めとする大藤一族五代の売り物は、相手の懐に入り込んでかく乱する調略術。 ストーリィは、信基・景長・秀信・政信・直信と大藤一族各代が行った調略活動を連作風に描くという構成です。 前半、なんとなく盛り上がらず、という印象。 「調略」という言葉は、司馬遼太郎「新史太閤記」での秀吉の戦術活動としてしきりに使われていましたが、本書の大藤一族が行った調略とは趣きが異なります。秀吉の場合は、利を以て説くという外交交渉。それに対し大藤一族の調略は、要は“騙し”。 騙しで北条氏の勢力拡大、領地拡大が達せられても、どこかすっきりしないという思いが残ります。 それが一転して面白くなったのは、「幻の軍師」「黄金の城」。 前者で騙す相手はあの上杉輝虎(謙信)、後者で騙す相手は秀吉軍の織田信雄と福島正則ら。相手が強者となれば、騙すという戦術が俄然面白くなる、痛快といって差し支えありません。 最後、北条氏は滅亡する訳ですが、そこに悲壮感はなく、大藤直信の今後を見据えた視線といい、むしろ爽快な余韻が残ります。 城をひとつ/当代無双/落葉一掃/一期の名折れ/幻の軍師/黄金の城 |