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「貝に続く場所にて」 ★★☆ 芥川賞 | |
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芥川賞受賞を機に興味を感じて読んだ作品。 ドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす主人公の元を、9年前の東日本大震災で行方不明になったままの友人=野宮が訪ねてきます。 同じく大学で西洋美術史を専攻していた澤田から事前に連絡を受けて駅で出迎えたという経緯のため、戸惑うことはなかったというものの、不思議な滑り出しから始まるストーリィ。 舞台となるゲッティンゲンという歴史ある都市がちょっと不思議な処。この街には“惑星の小径”と呼ばれる太陽系の縮小模型が組み込まれている、というのですから。 主人公が抱える、野宮に関する記憶の断片がストーリィ中に散りばめられます。 それは主人公についてだけでなく、この街の知人たちが抱える記憶の断片も同様。 さらに、準惑星に格落ちして撤去された筈の冥王星のブロンズ板が復活しているという話(準惑星になったからといってその存在が無くなる訳ではない)。 記憶の断片が残っている限り、それは事実としてあるのと何ら変わりない、そういうことなのでしょうか。 震災の地から遠く離れた異国の都市という舞台が、如何にも格好です。 どこまでも静謐なストーリィ。僅か 150頁程の作品ですが、驚くほど多くの物語、想いが籠められていて、印象的です。 |