石田夏穂(かほ)作品のページ


1991年埼玉県生、東京工業大学工学部卒。2020年「その周囲、五十八センチ」にて第38回大阪女性文芸賞、21年「我が友、スミス」が第45回すばる文学賞佳作となり同作にて作家デビュー。


1.我が友、スミス 

2.黄金比の縁 

3.我が手の太陽 

 


                   

1.
「我が友、スミス Smith, My Friend ★★☆    すばる文学賞佳作


我が友、スミス

2022年01月
集英社

(1400円+税)

2024年03月
集英社文庫



2023/07/04



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刊行時から興味を惹かれ、読もう読もうと思っていたのですが、中々機会をつかめず、今日になってしまいました。

女性のボディ・ビルを題材にした作品。その珍しさにまず惹かれます。
そして実際に読んだ感想はというと、実に面白かった。

主人公は、20代後半の地味な会社員女性=
U野
「別の生き物になりたい」という思いからボディ・ビルを始めたU野でしたが、思わぬことにこの世界で有名な女性=
O島からスカウトされ、彼女のジムに移ってボディ・ビル大会出場を目指すことになります。

ボディ・ビルのトレーニング内容自体、興味津々でしたが、ボディ・ビル大会を目指す過程になると、驚くことばかり。
男性と違ってただムキムキになれば良いというものではなく、同時に女性らしさも審査されるのだという。
そのため、U野は
E藤の指導を受け、それまで全く縁のなかった化粧、お洒落に励むことになりますが、その結果は・・・。

ボディ・ビルの大会ならそれだけで良いように思いますが、そこに美しさまで求めるのは、主催者?側の身勝手、と感じます。

結末は思いがけないものでしたが、それこそ、すっきりした、というもの。
他人のためではなく、自分のために行動する、それこそ自由、自分らしさというものでしょう。
U野の選択に、拍手です。


※「スミス」とは、ボディ・ビルのトレーニングマシン。

                

2.
「黄金比の縁(えん) ★★   


黄金比の縁

2023年06月
集英社

(1500円+税)



2023/07/13



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我が友、スミスも面白かったのですが、本作も着想が抜群に面白い。
誰もが多少は感じているであろう、就活、会社側の選考過程に潜む欺瞞を撃ち抜いている、という感じ。

主人公の
小野は12年前、Kエンジニアリングに入社し、希望部署に配属されプロセス・エンジニアリングとしての活躍を目指した女性。ところが、不運な出来事によって2年目にして人事部に異動。
その時の上司の言葉が強烈、
「会社の不利益になる人間は、ウチの部署には置けない」と直接言うのですから。

意に反して<新卒採用チーム>に左遷された小野は、会社への復讐を企むのです。
会社にとって一番不利益となることは何か? それは、採用した優秀な人材がすぐ退職(転職)してしまうこと。
だから「とっとと辞める秀才」を一人でも多く採用する、というのが小野の計略。
そのために小野が気づいたことは、黄金比を満たす顔の持ち主がそれに相応しい採用対象であるということ。
小野の<顔採用>は誰からも咎められることなく、むしろ評価を上げ、以来10年。その結果、採用後3年以内に2割が転職するという成果を上げるが、責任を負うのは新卒採用チームではなく<新人教育チーム>。小野の腹は痛まない。

新卒採用担当者の裏事情も描かれている、という処が面白い。
とくに小野も含めた新卒採用チーム3人の一次面接合否についてはもうテキトー、としか思えず笑ってしまう。
しかし、終盤、小野らが新たに迎えた応募者の一人には、何か不審な処あり。それは何なのか。
さて小野、この選択をどうする? 
そこにおいての小野の決断の良さが、痛快です。


石田夏穂作品、これからも期待大です。

              

3.
「我が手の太陽 ★★☆


我が手の太陽

2023年07月
講談社

(1500円+税)


2023/08/20


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鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業を過不足なく行うには、熟練した技術が必要なのだという。
そのため、工事現場でも花形的存在なのだとか。

本作は、その溶接工事の作業現場、作業の様子をリアルかつ詳細に描き出した異色のストーリィ。

主人公の
伊東は、ベテランの溶接工。
自分の技能に絶対的な自信を持っていたが、最近は欠陥率が以前より悪化していて、思うにならない。
そのため解体工事の現場行きを命じられて屈辱を感じ、苛立たしさを隠せない。それでも仕事は完璧にと思うのですが・・・。

主人公である伊東の人物像は、悪い意味での職人気質を脱することができず、必ずしも好感を抱くことはできません。
しかし、それとは別にして、工事現場、それも溶接作業の逐一をリアルに描き出す石田さんの筆さばきはお見事、圧倒されるばかり。
この部分が、まさしく本作の読み処でしょう。

※比べるものではありませんが、旋盤技術を競う、工業高校電子機械科の高校生たちを描いた
まはら三桃「鉄のしぶきがはねるをふと思い出しました。

    


   

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