乾 緑郎(ろくろう)作品のページ


1971年東京都生、東洋鍼灸専門学校卒。小劇場を中心として活動し、舞台俳優・演出家・脚本家を経て、36歳の時に鍼灸師の資格を取る。現在は鍼灸師としての仕事の傍ら、劇作家として演劇の脚本も手掛けている。2010年「忍び外伝」にて第2回朝日時代小説大賞、「完全なる首長竜の日」にて第9回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。

 
1.
忍び外伝

2.完全なる首長竜の日

  


     

1.

●「忍び外伝」●        朝日時代小説大賞




2010年11月
朝日新聞出版
(1500円+税)

2013年10月
朝日文庫化


2010/12/31


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織田信雄の伊賀攻めに始まり、最後は信長の本能寺の変にまで至るのですが、ストーリィが複雑に入り組み過ぎていて、すっきり読めないというのが難点。
一体どういうストーリィなのか、主眼はどこにあるのか、どう進んでいこうとするストーリィなのか、皆目判らないまま。

主人公は、伊賀・百地家に属する下人の石川文吾衛門
読み終った後に、本書は忍者物語であると同時に、主人公である文吾が我は何故忍びたろうとするのかの自問自答を含んだ成長物語であり、
お鈴(りん)を交えての青春物語であると言われればそれはそうかと思うものの、やはりすっきりしないものが残ります。
また、ストーリィ構成にもちと難点あり。冒頭の舞台は、奈良の猿沢池のほとり。そこで見世物を繰り広げていたのが果心居士。子供だましだとつぶやいた文吾、あっという間にその術の中に取り込まれ、みたこともない世界に。その後延々と、術に取り込まれた文吾の回想という形をもってストーリィは展開されていきます。

何故そうした設定が必要だったのか。凝り過ぎ、と感じざるを得ません。
結局、文吾は何を見出したのか。明解な答えがないままに終わってしまったような気がします。

      

2.

●「完全なる首長竜の日」●      「このミステリーがすごい!」大賞




2011年01月
宝島社刊
(1400円+税)

2012年01月
宝島社文庫化


2011/02/21


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「このミス」大賞作品。特に読む予定はなかったのですが、ちょうど目の前に借りられる状態で置かれていたので、折角だから借りて読んだ、という次第。
ただ、それ程面白いとは思わなかった、というのが率直な感想。「このミス」との好みの違いということでしょうか。

女性漫画家の和淳美と、自殺未遂が原因で植物状態になった弟の浩市。最新科学の「SCインターフェース」技術を通じて、淳美は意識不明の浩市と会話を交わすことができる、というのが本ストーリィの鍵。
ところが現実とSCインターフェースの世界が入り乱れ始め、淳美にとって何が現実で何が仮想なのかが次第に混乱してきます。
果たしてその原因は何なのか、そしてその結果待ち構えているものは何なのか、というストーリィ。

当然最後には全てが明らかになる訳ですが、同じような想定のストーリィ、どこかで読んだ気がするなぁ。そう珍しいものではない、という印象。
また、ストーリィに切迫感、焦燥感というものが余り感じられないため、迫力不足という印象です。

なお、表題の首長竜=プレシオサウルスは、姉弟が初めて会う祖父のために描いた絵。

   


  

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