今邑
(いまむらあや)作品のページ


1955年長野県生、都留文化大学英文科卒。会社勤務を経て作家。89年「卍の殺人」にて「鮎川哲也と13の謎」および「13番目の椅子」を獲得して作家デビュー。

 
1.
ルームメイト

2.いつもの朝に

 


   

1.

●「ルームメイト」● ★☆




1997年08月
中央公論社刊

(857円+税)

2006年04月
中公文庫化

 
2010/07/16

  
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だいぶ以前の作品ですが、ある書店のポップが本書の再人気を呼び起こし・・・という話を聞いて読んでみました。

東京の大学に進学して上京した萩尾春海は、西村麗子という女子大生と部屋をルームシェアすることに。しかし、1ヶ月経たぬ間に彼女は急に派手になり、ついに失踪。
大学の先輩=工藤謙介と彼女の行方を追い始めた春海は、彼女が二重、三重の生活を送っていたことを知る。
そして、彼女の失踪は、最近起きたホテルでの猟奇殺人とどういう関係があるのか、というサスペンス・ストーリィ。

近くにいた女性が突然失踪、その謎を追うというストーリィは結構多いのですが、本作品は多重人格を掛け合わせた点がミソ。
二重、三重の生活が多重人格によってもたらされていたという事情はすぐ、あっさりと明らかになるのですが、その複雑さは頁をめくるに連れてどんどん深まり、限りなし。
後半の中頃でストーリィの行方は概ね見えたと思ったのですが、それを越えてさらに複雑さはなお深まるばかり。まるで“複雑”という大渦の中にまき込まれ、渦の深い底にまでぐるぐる回りながら下りていく、という感じです。
やっと底についたところで上を仰ぎ見ると、それなりに面白くはあったのですが、ただ複雑さだけがあり、この底にはそれ以外の何ものもなかった、という気がしないではありません。

こうしたストーリィ、要は読む人の好み次第、と思うのです。

※映画化 → 「ルームメイト

     

2.

●「いつもの朝に」● ★★☆




2006年03月
集英社刊
(2300円+税)

2009年03月
集英社文庫化
(上下)

 

2006/05/11

 

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帯の紹介文には「エデンの東の感動を現代に甦らせる、驚くべき傑作」とありますが、悔やまれることに私はスタインベックの「エデンの東」を読んでいない。また、ジェームズ・ディーン主演の映画も観ていない。
ですから、そう言われても・・・・。

本作品は、性格も評判も正反対な2人の兄弟(中学生)の物語。
兄の桐人は成績優秀、スポーツも万能で美男子、周囲の評判もとても高い。弟の面倒もよくみている。それに対し、弟の優太はチビでニキビ面で成績も運動もパッとせず、性格もいいとは言えない(※キリスト、ユダに似た名前)。
そんな兄弟の上に、ある日突然ドラマが切って落とされます。優太の大事にしていたぬいぐるみの中から、父親から優太に宛てた手紙が出てきます。
自分の本当の父親は別にいるのか? その手紙に書かれていた老女を訪ねるところから、優太は出生の秘密を探り始めます。そして明らかになった出来事は、30年前の牧師一家惨殺事件。
ところが秘められていた事実は、そう単純に終わるものではなかった・・・。

2人の兄弟をめぐる、愛憎、葛藤、確執、そして対決というドラマ。次にどう展開していくのか、頁を繰る手を止めることができません。
本作品の魅力が兄弟の人物造形の良さ、次々と局面が変わっていく小気味良い展開にあることは間違いありませんが、2人の周辺にいる母親・沙羅、そして優太の幼馴染である同級生・千夏の存在も欠かせません。
犯罪者となるのは遺伝か、それとも環境か? という極端な論理を軸にストーリィは展開していきますが、そんなことはまるで気になりません。それはあくまで主人公の思い込みにしか過ぎないのですから。
展開されるストーリィより、登場人物同士の相克に読み応え、魅力があります。
最初は出来の悪い優太に同情を覚えたものの、中盤では積極的に優太が好きになり、最後には桐人にも好感を覚えて読み終えた物語。
※脇役ですけれど、千夏という女の子も良いです。

   


   

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