五十嵐貴久作品のページ No.3



21.セブンズ!

22.スタンドアップ!

23.ウェディングプランナー

24.命の砦
−女性消防士・神谷夏美No.3− 

25.奇跡を蒔くひと 

26.鋼の絆−ギンイチ消防士・神谷夏美− 


【作家歴】、交渉人、1985年の奇跡、TVJ、2005年のロケットボーイズ、パパとムスメの7日間、交渉人遠野麻衣子・最後の事件、年下の男の子、パパママムスメの10日間、ウエディング・ベル、サウンド・オブ・サイレンス

→ 五十嵐貴久作品のページ No.1


ぼくたちのアリウープ、編集ガール!、こちら弁天通りラッキーロード商店街、キャリア警部・道定聡の苦悩、可愛いベイビー、学園天国、炎の塔、SCS、あの子が結婚するなんて、波濤の城

→ 五十嵐貴久作品のページ No.2

  


             

21.

「セブンズ! SEVENS! ★☆


セブンズ!

2017年12月
角川書店刊

(1550円+税)

2020年05月
双葉文庫



2018/01/07



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ラグビーの町、岩手県釜崎市が舞台。
7人制女子ラグビーで来年の国体での優勝を担わされた奥寺浩子は、岩手県釜崎市役所の職員(市民スポーツ課係長)兼県チームである<岩手ブロッサム>の選手兼監督、29歳。
4年後のラグビーワールドカップが釜崎市で開催されることが決定し、元々ラグビー好きの県とあって熱意は盛り上がる一方ですが、実際にチームを預かる浩子の置かれた状況は厳しい。
チームのメンバーは、中学生や高校生から企業勤務の社会人、さらには子持ち専業主婦と完全な寄せ集めチーム。
チームを強くしようと練習を強化すれば辞めたいと言い出すメンバーも出るし、元々競技人数の少ない競技とあって新たなメンバーを集めるのもそう簡単にはいかず。
それでも責任を放りだすことなどありえず、浩子はあらゆる手を打ち続けるのですが、その浩子が秘かに待ち望んでいるのは、高校2年生の妹=
の参加。
実は泉、小学生の頃はラグビーをやっていたが、あることが理由でラグビーをきっぱり辞めていた・・・。

スポーツ小説はいろいろありますが、本作は全てを勝つためだけにかけた女子ラグビーチームを巡る物語。
それ故、まるで実際のスポーツを観戦しているかのように、ストーリィが進み後半になる程引き込まれますが、残念ながらストーリィの中味としては割と単調。
それでも猛練習に絶望感を抱くメンバーたち、個性的なメンバーたち各々の踏ん張り(特に
ジャスミン)、そして泉のもつ可能性が十分ストーリィを面白くしてくれています。

プロローグ/1.キックオフ/2.リスタート/3.合宿/4.国体/エピローグ

      

22.

「スタンドアップ! Stand Up! ★★


スタンドアップ!

2018年06月
PHP研究所

(1700円+税)

2022年01月
PHP文芸文庫



2018/07/14



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リストラ失職後、働きもせずDV夫と化した夫から、愛娘である6歳の唯愛(ゆあ)と共に逃げ出した沢口愛、33歳
勤務先の病院で知り合った女性が逃亡に協力してくれたものの、新しい住居として用意されていたのはボロアパート。しかも、DV夫に見つけ出されないよう、唯愛が小学校に通うのは当面諦めること、また愛自身も看護師の仕事に就くのは危険と、紹介してもらったコミック・アニメ・ゲームの中古品販売店でバイト勤めすることに。

その販売店で同僚となった若い
モモコから、シェイプアップに付き合ってと半ば強引に、一緒に入会させられたのが、ボクシングジム。
ジム会長の姪である
望美から、才能があると断言された愛、保育士である望美に唯愛の面倒を見てもらいながら、厳しいトレーニングを続けていきます。そして見事、女子プロボクサーとしてのプロテストにも合格。
ところが、考えもしなかった相手から、愛にタイトル戦のオファーが舞い込む・・・。

人との関わり方が上手くできず、友だちもいないままずっと孤独に生きて来た愛。人生の敗残者であることに慣れ切った愛でしたが、ボクシングを始めてから、愛を応援してくれる大勢の仲間も出来て、状況は変わっていきます。
でも、自分自身がまだ負け犬から抜け出せていない。
自分に誇りを持つため、娘の唯愛に諦めずに闘う姿を見せたいという思いから、愛はリングに上がることを決意します。

まさに
映画“ロッキー”の、孤独なシングルマザー版。
最終場面までは、DV夫から逃げ出した母子の割とよくあるがんばりストーリィという感じでしたが、“ロッキー”同様、最後の試合場面では胸熱くなり、同時に熱い感動に駆られます。
愛自身の頑張りも勿論ですが、愛を応援する仲間たちがいつのまにか大勢になっていたこと、そして最後に観衆からの声援さえも勝ち得るところが、何と言っても熱い!

どうぞ本作で、映画“ロッキー”の興奮をもう一度。


1.ドメスティック・バイオレンス/2.オープン・ザ・ドア/3.ボクササイズ/4.ノット・アローン/5.デビュー/6.チャレンジ/7.プロテスト/8.オファー/9.トレーニング・デイ/10.カウンター/11.ゴング/ファイナルラウンド.ラストスタンディング・ウーマン

            

23.

「ウェディングプランナー Wedding Planner ★☆


ウェディングプランナー

2018年10月
祥伝社

(1600円+税)

2021年06月
祥伝社文庫



2018/11/08



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主人公は草野こより、31歳。職業はウェディングプランナー。
仕事経験は十分で、段取りのそつなさから“ダンドリ十段”の異名をとるベテラン社員。
本作は、そんな草野こよりが担当するウェディングの直前になって生じる様々なトラブルに奮闘するお仕事小説であると同時に、こより自身の結婚準備にあれこれ悩むという、結婚式とは何ぞやと考えさせられる連作風ストーリィになっています。

自分自身もかつて経験したことですが、結婚式とは大変なもの。そしてそれ以上に、その相談に与り、遺漏なきよう手配するプランナーの仕事は大変だなぁとつくづく感じさせられる次第です。
でも、そこまで大事なものなのだろうか、そんな苦労してまで挙げなくてはならないものだろうか、とも考えさせられます。

一番の問題はお金がかかることでしょう。
反対というつもりはありませんので、その費用を十分負担でき、結婚式・披露宴を是非やりたいということであれば勿論すれば良い。でも無理してまでやらなくてはいけないものでもないと思います。
幸せな結婚式を挙げられればそれに越したことはありませんし、一方、結婚式を挙げたから幸せになれるというものでもありませんから。

さて肝心のストーリィ、お仕事小説部分はそれなりに。
一方、美容師の恋人=
遠藤幸雄との結婚を目前にするこよりの前に、かつてお互いに結婚を意識した間柄であったものの相手のフランス修業のため別れた元恋人の徳井孝司が、契約先のフレンチレストラン名店のスーシェフとなって再登場します。
いったいどうなることやら、その部分はサスペンスさながら。
そして最後は、五十嵐さんらしい仕掛けに驚かされます。
それなりに楽しめる、軽快な<結婚式>ストーリィ。


新郎新婦入場/開宴の辞/主賓挨拶/ウェディングケーキ入刀/祝辞/お色直し/余興/親への手紙/閉宴の辞

     

24.

「命の砦 The Fort of Life ★★☆


命の砦

2020年10月
祥伝社

(1700円+税)

2023年10月
祥伝社文庫



2020/12/10



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“女性消防士・神谷夏美”シリーズ三部作の最終巻。

とにかく凄まじい、凄絶の一言に尽きます!

クリスマスイブの夜、大勢の人でごった返す新宿の地下街<サンズロード>。
その閉鎖的な空間である地下街で、突然火の手が上がります。それも幾つも、さらに断続的にあちこちで。
SNSで通知された犯行計画、今の社会に不満や恨みをもつ人間たち30人近くが、それぞれ単独で参画して犯行を実施。さらに設置されている防火・消防設備まで使用を妨害。
地元の新宿署・渋谷署に加え近隣の消防署も消火活動に加わりますが火災の勢いは増すばかり。
ついに、主人公=
神谷夏美消防士長が所属する<ギンイチ(銀座第一消防署)>の出動、消防隊の総指揮が委ねられます。

現地で陣頭指揮を執るのは、ギンイチ・ナンバースリーの
村田大輔消防正監。夏美ら消防士たちは、混乱と困難を極める地下街いっぱいに広がった「火」に勝つことはできるのか?

前半、要救助者となった一般人を救助できるのかが中心。
しかし、マグネシウム製パソコン機器が地下街の特設ブースに大量に積み上げられているのかが判るや、様相は一変します。
消火活動を続けようとする消防士たちが、いつ何時マクネシウムが爆発するかも分からないという危機に直面するのですから。
同僚である多くの消防士が倒れ、尊敬する上司や大切なバディまで、そしてついには夏美もまた・・・・。

幾ら言葉を重ねても、本ストーリィが生み出す緊迫感、閉塞感、恐怖、凄絶感は言い表すことはできません。
とにかくもまず読んでみて、という一言に尽きます。

※なお、“女性消防士・神谷夏美”シリーズ、
第一作
「炎の塔」は、映画「タワーリング・インフェルノ」の、
第二作
「波濤の城」は、映画「ポセイドン・アドベンチャー」のオマージュ、そして第三作である本書はオリジナルストーリィとのこと。
第一作・第二作とも未読なので、機会を見つけていつか読んでみたいと思っています。


プロローグ/1.クリスマスイブ/2.デンジャーゾーン/3.突入/4.地下街/5.攻防/6.エンジェル/エピローグ

       

25.

「奇跡を蒔くひと ★★   


奇跡を蒔くひと

2022年09月
光文社

(1700円+税)



2022/10/21



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地方の小都市=絵美県詩波(しば)市にある市民病院は、赤字垂れ流し状態で市からの援助金額は膨れ上がる場合とあって、潰れる寸前。
しかも、責任を追及された院長ら3人の医師はさっさと退職、副院長も時期は後になるが同じく退職予定とあって、残る常勤医師は最も若い、
速水隆太・34歳、ただ一人に。
周囲からも退職を勧められた速水ですが、この地域に市民病院の存在は欠かせないと、院長を引き受けると共に、3年間で赤字をゼロにしてみせると確約することになります。
果たして市民病院の再生は可能か?

前代未聞の若さで院長に就任、しかも責任は重大どころか、看護師等々病院スタッフ全員の生活、そして市民の医療体制維持に関わる責任を担ったという訳ですから、凄い。
果たして速水は、リストラせずに市民病院の再生を出来るのか、そしてそれをどうやって実行していくのか、が本作の読み処。
そのうえ、市民病院を廃院にしようと執念を燃やす、厚労省審議官の服部が速水たちの前に立ち塞がります。

速水一人で再生ができるものではないのは当然のこと。看護師やスタッフたちの協力、努力も欠かせませんが、彼らをしてそう行動せしめるためには速水による明確な行動指針、目標、自らによる実践が欠かせません。
見どころ満載、そして最後の速水と服部の対決がエクサイティング。

企業再生や農業再生のストーリィは幾つも読んでいますが、病院の再生というのはまた独自の要素があるようで、学ぶ処も多々ありと、読み応えたっぷりです。

なお、本作はフィクションですが、志摩市民病院がモデルになっているそうです。


プロローグ−2016年9月30日/1.最低の市民病院−2016年12月〜/2.新方針−2016年12月〜/3.眼前の敵−2017年4月〜/4.七十八歳の医師−2018年2月〜/5.病院祭−2018年8月〜/6.不意打ち−2019年1月〜/7.存続の危機−2019年6月〜/8.増床−2019年6月〜/9.新型ウイルス−2019年7月〜/10.対決−2020年1月〜/エピローグ−2020年4月6日

       

26.

「鋼の絆−ギンイチ消防士・神谷夏美− ★★   


鋼の絆

2023年11月
祥伝社
(1700円+税)



2023/12/02



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炎の塔」「波濤の城」「命の砦“女性消防士・神谷夏美”三部作は完結と思っていましたが、原点に遡っての新作が登場とあってやはり興奮を覚えます。

本作の
神谷夏美は、ギンイチ配属前。
伝説の消防士だった父親の
神谷誠一郎が火災現場で殉職。それがきっかけとなって夏美は英語教師の道を方向転換し、消防士採用試験を受けて東京消防庁に入庁。
しかし、配属先は八王子のはずれにある小さな消防署で、火災はめったに起きず。身長 161cmと小柄で身体能力は消防士の最低ライン。
そんな夏美が何故、
ギンイチ(銀座第一消防署)の新隊員選抜のため全国から集められたエース級の若手30名の、3ヶ月に及ぶ過酷な研修に何故招集されたのか? その内女性は、夏美とアスリート出身のもう一人のみ。

研修開始早々、夏美は他の消防士たちについていけず、他の研修生たちから早く辞めろと悪口を浴びせられる。しかし、それでも夏美が粘り続けたのは何故なのか?

前3作と比べ、過酷ではあっても研修ですからそこまでのハードさはありません。しかし、研修の途中、実際の火災現場に応援で狩り出され、危険に直面する展開もあります。また、そこで負傷し、研修から脱落する人間も出てきます。
大規模だろうが、小規模だろうが、火災現場の危険さは変わることはない、だからこそ油断せず、臆病であることが大切なのだという教えが実感できます。

何はともあれ、研修合格を勝ち取るまでの夏美の苦しみ、葛藤、苦闘が描かれているところが、本作の醍醐味。
とくに注目に値するのは、見下されたところから始まり、ついに一人の消防士として周囲からの信頼を勝ち得るまでに至るところ。
最後まで心を折ることのなかった夏美の奮闘を、是非読んでみてください。

消防司令長の村田、消防士司令補の柳雅代と、お馴染みの人物も顔を揃え、懐かしい。

プロローグ/1.銀座第一消防署/2.辞退届/3.訓練/4.救助訓練/5.人命検索/6.昇降訓練/7.降下/8.救出/9.体力テスト/10.面接/エピローグ

       

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