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1.火の旅 2.螺法四千年記 3.御命授天纏佐左目谷行 4.校舎の静脈 5.チャイムが鳴った |
●「火の旅」● ★☆ |
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梅崎春生の名作「幻花」の主人公・久住五郎が旅した南九州、坊津・熊本・阿蘇等を、彼の足跡を追うように旅するストーリィ。
主人公の光子は「幻花」の熱心なファンらしい。作品が生まれて40年を経た今、その主人公が辿ったとおりに或いはそれに近い旅を、忙しく行っていきます。 とはいえ、本好きの身として、自分の好きな作家の作品の跡を追うような旅というだけで楽しみは感じるものです。 |
「螺法四千年記」 ★★☆ 野間文芸新人賞 |
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まず海辺、民宿<宝船>に滞在している印南(いなみ)という作家くずれの男が登場します。 その印南、古道具屋というよりも物置小屋と言った方が相応しい<伽耶伽耶(がやがや)>の店番を務めているのですが、ふと居眠りする内に夢うつつ、摩訶不思議な世界に入り込んでいくというストーリィ。 その世界で印南が発見したのが、「螺法四千年記(訳)」という題名の古文書という次第。 印南自身が何時の間にか何と白蜥蜴に変化していたと思えば、蟋蟀(こおろぎ)や蜘蛛、蝸牛、蝙蝠、蟾蜍(ひきがえる)といった魑魅魍魎が次々に現れて言葉を放っていく。一方では弁才天まで登場し、修理に出した琵琶を心配したり、ケープを置き忘れて大騒ぎしたりと、わいわい、がやがや、賑やかです。 登場するのが人間でないからこそユーモラスなのか。理屈など何処へやら、愉快な気分です。 どこか猥雑で、どこかユーモア漂うその雰囲気に浸っているだけで、充分楽しき哉。 登場する魑魅魍魎たちは人間以上に生き生きとしているようで、悠久の時を感じさせられる処もあり。 |
3. | |
「御命授天纏佐左目谷行(ごめいさずかりてんてんささめがやつゆき)」 ★★ |
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摩訶不思議な世界(と言っても魑魅魍魎といった印象はなく)を、軽くユーモラスに描いた表題作を含む3篇。 表題作は、猫の君子たる夜見闇君の居候である黒五右衛門寺宗介が夜闇君から頼まれ、繭君の終日君(御蛹様)を佐左目谷君の元まで送り届ける、といったストーリィ。 冒頭から、現世界ではありえなそうな存在が次々登場するのですから、これはもう普通の小説ではない。 と言って気味悪いというようなところは微塵もなく、乾いて軽くユーモラスな道行が描かれていくのですから、結構楽しい。 まぁ、読む人の好み次第であるのは否めませんが。 「行方」は、影を追ってきて気付くと海辺の漁師小屋。 本篇は、生に別れを告げる境目を描いたストーリィか。空虚でありそうで、でもその軽さと明るさはちと魅力。 「かげろう草紙」は、境内で自ら綴った草紙を商っていた虚屋敷漏(アキヤシキモル)こと深谷弥惣介(ミタニヤソウスケ)が、面を付けた奇妙な老人に振り回されるストーリィ。この篇は、文章が終ったその後の行方こそになります。 御命授天纏佐左目谷行/行方/かげろう草紙 |
「校舎の静脈」 ★★ | |
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何とも不思議な短編小説x3、表題作である中編小説x1から成る中短編集。 日常的でありながら非日常的、訳の分からない世界、でもそこにあるのはやはり日常的なこととしか言いようがありません。 「兎」には、主人公の他、兎と兎の食べ物を運ぶ女が登場。 「湖畔情景」には人魚と男女の河童、そして龍までも登場。 「若水」では、久方ぶりに実家に戻った年男の前に、猫になった母親と鶴になった父親が姿を見せます。 不思議、なぜこうしたストーリィなのか、突きとめようと思っても分かる訳はなく、何故か居心地の良い雰囲気に浸るだけ。 本書でやはり惹かれるのは表題作の「校舎の静脈」。 中に入るとタイムスリップする、と言われる給食運搬用のリフトの中に入った生徒の一人はどうなったのか。 それははっきり明かされることのないままに、同級生たち一人一人のこと、彼ら彼女らたちの日常が事細かく書き綴られていきます。まるで非現実と現実が糸を紡ぐようにして。 本作品の不思議な感覚、そして愛おしさを感じるのはその所為なのでしょうか。 理屈で語るのではなく、その雰囲気に身を浸せばいい、そんな思いを覚える一冊です。 兎/湖畔情景/若水/校舎の静脈 |
「チャイムが鳴った」 ★★ | |
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「虹のかかる行町」は中編、残る3篇は短編小説。 「虹のかかる行町」で印象的なのは、次々と登場する子供たちの名前がやたら難しい、珍しいものの羅列であること。 どれも、どうということのない日常的なスケッチ。でもストーリィとして繋がっていくことはなく、まるで寄せ集めたパズルのようです。 現実でありながら、どこか非現実のような匂いがします。 どこかフワフワと漂っているようない漢字を受けます。 残る3篇は短篇ですが、印象は上記「虹のかかる行町」と共通します。 皆さんは、自分がいまここにいる世界を、本当に現実なのか、もしかして夢あるいは幻想なのではないか、と思ったことはありませんか。 本書で描かれるストーリィ世界、現実なのかどうか、ふと不確かに感じる、そんな境の場所に足を踏み入れた気がします。 どこか不確かな浮揚感、でも決して不快ではなく、そのまま身を任せていたい心地良さがあります。 虹のかかる行町/かえる/ともだち/飛光 |