蓮見圭一作品のページ


1959年秋田県秋田市生、立教大学卒。新聞社、出版社勤務を経て、2001年「水曜の朝、午前三時」にて作家デビュー。同作がベストセラーとなり話題となる。


1.水曜の朝、午前三時

2.美しき人生

  


 

1.

「水曜の朝、午前三時」 ★★


水曜の朝、午前三時

2001年11月
新潮社

2005年12月
新潮文庫
(476円+税)

2017年11月
河出文庫



2006/12/05



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翻訳家であり詩人でもあった四条直美は、45歳の若さで脳腫瘍のため死去。その彼女が当時NYに留学中だった娘の葉子に残した4巻のテープ。そこには彼女の秘めたラブストーリィが語られていた、というストーリィ。
児玉清氏の「こんな恋愛小説を待ち焦がれていた」という評に惹かれて読んだ作品ですが、それによりかえって身を焦がすような恋愛がある筈と思い込んでしまった所為か、それ程でもないなァと感じたのが前半部分。そうなると後半には一体何が残されているのだろう?と戸惑ったのですが、むしろそこからが本作品の真骨頂と言うべきストーリィです。

恋愛小説というより、四条直美という自他共に認める型破りな女性の生き方を描いた点に、むしろ目を向けるべきでしょう。
就職するまで親の敷いたレールに大人しく乗ってお嬢様らしく生きてきた直美。いつの間にか許婚者・式場の日取りまで親に決められていた直美が自立しようと選んだ道は、大阪万博のホステス(コンパニオン)への応募。
そこからの直美は、それ以前とは打って変わったような奔放な姿を見せ始めます。日本中が熱気をはらんだ様な万博騒ぎ(私はその場外でしたけど)、その現場で直美は激烈な恋をします。相手は、会場スタッフから一様に将来のエリート外交官と目された青年・臼井礼

その臼井に向かって直美はなりふり構わない行動を示すようになります。しかし、直美が知ることになった衝撃的な事実、そしてその後にもたらされた、ある女性の午前三時の死。
一時の熱愛ではなく長きにわたって連綿として続く恋こそ、その恋の深さを感じます。そしてその恋は直美の人生を大きく揺り動かすものだった。

本作品はその内容にもかかわらず、意外と静かで毅然とした雰囲気を持っています。
直美自身による語りに加え、葉子の夫で直美のテープをまとめた「」という視点が良い効果をもたらしています。
「僕」は葉子の小学校時代の同級生であり、初めて好きになった大人の女性が直美である、という。その構成が巧みです。

直美ほど熱烈な恋をしなくても、過去の恋の思い出をずっと胸に抱えている人は多いのではないでしょうか。それは非難されるようなことではなく肯定されるべきこと。だからこそ本ストーリィに共感する気持ちが生まれます。
読了後に残る、人生にはそんなことがあっても良いのだ、という思いがとても心地良い。

      

2.

「美しき人生 What is Life ★★☆   


美しい人生

2023年04月
河出書房新社

(1700円+税)



2023/04/29



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「水曜の朝、午前三時」に続く、純愛ストーリィ。

ただ、出版社紹介文には余り気持ちを惹かれなかったのですが、読み始めてすぐ本作に惹きつけられました。

ストーリィは、いわゆるトップ屋の
阿久津哲也が、離婚して中伊豆の旅館の女将を継いだ元妻の仁美と暮らす息子=の高校卒業式に参列するところから始まります。
真壁校長のスピーチに魅了された阿久津は、ラジオ局のプロデューサーを同行して、再度真壁校長の元を訪れます。

この真壁校長の話がとても良い。さりげない中に人と人の貴い繋がりが語られていて、その話の上手さ、美しさに読み手も魅了されずにはいられません。
そしてそれらの話の続きから、かつての同級生との思い出、恋物語が語られていきます。

導入部分の構成が実に見事。すんなりと本ストーリィへと入っていき、自然体で校長の昔語りに身を任せた、という感じ。

両親の事故死により北海道の岩内に住む父方の祖母と伯父の家に引き取られて育った
真壁純は、祖母の老人ホーム入所を機に、沼津に住む母方祖母と独身の叔母のもとに引き取られます。
純と
水島明子の交際は、沼津に移る前、中二の僅か10日間だけ。
それからは後は文通が二人を僅かに結びます。
そして20歳の時に再会したとき、明子の様子はすっかり変わっていた。それからの日々、純と明子は・・・。

本作の魅力については、語りの上手さ、というに尽きます。
そして純と明子の恋愛物語は、それぞれに迷い、疑い、波乱を抱え込みながら進み、純愛をもって遂に繋がる、という風。
恋愛ストーリィというと何処かどろっとしたところがあるものですが、二人の恋は純粋かつ清新と言う他ありません。
お薦めです。

  


  

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