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1.杉森くんを殺すには 2.この世は生きる価値がある |
「杉森くんを殺すには」 ★★★ 野間児童文芸賞 | |
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野間児童文芸賞受賞作と知って読んだ作品。 とはいえ、本作題名には驚きました。ショッキング、と言って良い程に。 一体、主人公と「杉森くん」の間に何があったのか、杉森くんとは殺したいと思われるような人物なのか、と。 主人公は15歳、高校一年生の「ヒロ」こと広瀬結愛(ゆあ)。 冒頭、信頼する相談相手である義兄ミトさん(大学三年生)に、ヒロが「杉森くんを殺すことにしたの」と打ち明ける処から始まります。 ミトさんからのアドバイスは二つ。ひとつは、やり残したことをやっておくこと。もうひとつは、杉森くんを殺さなきゃいけない理由をまとめておくこと。 そこから各章、ヒロの現在進行中の日々と、杉森くんを殺す理由が、順次語られて行きます。 ストーリーの進展に連れ、ヒロが杉森くんを殺そうと決めた深い事情、理由が徐々に分かってきます・・・何と切ない。 ヒロにも至らない処はあったでしょう、でもだからといってヒロが重荷を背負わされて言い訳はありません。 そうした中で、ヒロと新たに友だちとなったクラスメイトたちの関りも描かれて行きます。 それによってどれだけヒロが救われたことか。ヒロは決して孤独ではなかった、だからこそ・・・と感じられます。 驚きに満ちた、そしてこれ以上ないくらいに切ない、高校生の青春記。 本作に出会えてよかった。 是非お薦めしたい一冊です。 |
「この世は生きる価値がある」 ★★ | |
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長谷川まりる作品は本作を含め、まだ2冊を読んだだけですが、本当に発想が面白いなぁと感心します。 冒頭、どこからか逃げ出した“ある魂”、捕まるまいとして飛び込んだのが、インフルエンザで死んだばかりの14歳、中学二年の高梨天山の身体。 ただし、死んでしまった体であるが故に、天山として生きられるのは一年限り。それでも実体験する現世は、友人、学校と、輝きに満ちて楽しいことばかり。 当然ながら魂、天山自身や現世について何も知りませんから、そこは記憶喪失になったと誤魔化すことに。 しかし、その“天山”の周りには常に、魂を連れ戻しに来た<アイツ>(天山は「キツネ」と呼ぶ)が出没し、天山に警告を発します。 さて、天山の学校生活は如何なるものになるのか。 そもそも天山、どういった生徒だったのかということが問題になる筈なのですが、記憶喪失して“新・天山”と称し、過去は気にせず、今を楽しもうとする。 その中で天山が気になったのは、不登校の同級生・・・。 奇想に基づくストーリーですが、作者、そして魂が語ろうとしているのは、苦しいことや嫌なことがあろうとも、生きるということの素晴らしさ、大切さ。だから、それを自分から手放すようなことをしてはいけない、ということ。 本ストーリーの中で、いつのまにか魂が、見事な成長を遂げている処が楽しい。しかもしたたかに。 児童向けですけれど、大人が読んでも十分に感動できる作品。 お薦めです。 プロローグ/三月/四月/五月/七月/八月/九月/十月/十二月/一月/二月/三月/最後の夜/プロローグ |