濱野京子作品のページ No.1


1956年熊本県生、東京育ち、早稲田大学第二文学部卒。
99年毎日児童小説コンクール優秀賞、2002年同コンクール最優秀賞受賞。06年「天下無敵のお嬢さま!−@けやき御殿のメリーさん」にて作家デビュー。「フュージョン」にて第2回JBBY賞、09年「トーキョー・クロスロード」にて第25回坪田譲治文学賞を受賞。


1.
その角を曲がれば

2.フュージョン

3.トーキョー・クロスロード

4.レッドシャイン

5.碧空の果てに

6.白い月の丘で

7.木工少女

8.紅に輝く河

9.レガッタ!

10.レガッタ!2


くりぃむパン、レガッタ!3、石を抱くエイリアン、ことづて屋、ことづて屋−停電の夜に−、アカシア書店営業中!、ことづて屋−寄りそう人−、この川のむこうに君がいる、谷中の街の洋食屋−紅らんたん、南河国物語

 → 濱野京子作品のページ No.2


夏休みにぼくが図書館で見つけたもの、with you、野原できみとピクニック、マスクと黒板、空と大地に出会う夏、シタマチ・レイクサイド・ロード、金曜日のあたしたち、はじまりは一冊の本!、となりのきみのクライシス 

 → 濱野京子作品のページ No.3

 


     

1.

●「その角を曲がれば」● 


その角を曲がれば画像

2007年02月
講談社刊
(1300円+税)



2011/05/15



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中学3年、同じクラスの仲良し3人組。
バドミントン部を半年で退部した
と、甘えっ子系の美香、バドミントン部で活躍する樹里、という3人。
けれど、受験生となりまもなく中学を終えようとしている3人の思いには、それぞれズレがあって・・・。
そして、もう一人の同級生の存在が、杏と美香の間に水を差します。

中学3年生という時期は、いよいよ子供を卒業し、大人の入口にさしかかるという微妙な時期でしょう。
その微妙な時期にさしかかって揺れ動く3人の胸の内を瑞々しく描く、中学・青春ストーリィ。

ただし、読み始めて3分の2くらいまでの間かな、大したことではないことをあれこれ気に病むのだなぁ女子って、という思いがないではありません。
また、これが高校生ならまだ理解が及ぶのですが、中学生となると、全く想像可能範囲の外にある、という感じ。
正直言って、自分の中学生時代ってもっと子供っぽかった気がします。まぁ、最近の中学生は昔に比べ大人びている、とは言えますが。

「清新」と感じたのは、最後、読み終える頃になってから。
その後の作品と比べると、習作という印象を受けます。

     

2.

●「フュージョン」● ★★☆         JBBY賞


フュージョン画像

2008年02月
講談社刊
(1300円+税)



2011/05/12



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仲の良かった高校生の兄は、名門高校の優等生だったにもかかわらず、突然失踪、未だ行方知れず。原因は両親との確執で、それは朋花も共感するところ。
その朋花は、中学校で目立たない女子。

そんな朋花がある日、遠くにある公園でたまたま目撃したのは、ダブルダッチ(2本の縄を回して跳ぶ縄跳び)をしている少女たちの姿。スゴイ、思わず魅せられてしまう。
もうひとつ朋花が驚いたのは、そのメンツ。
同じクラスの優等生と、同学年で不良とみられている女子、そしてそのパシリとみられている女子。

引きこまれるように仲間となり、一緒に跳び始めた朋花が、ダブルダッチ、そして新たに友人となった3人との付き合いを通じて、徐々に変わっていくストーリィ。

ダブルダッチという縄跳びについて知る楽しみもさることながら、躍動感あふれる、少女たちの生き生きとした姿が魅力的。
どちらかというとウジウジしていたかのような朋花が、次第に積極的な姿勢に変わっていくところも、成長物語として楽しみなところ。
朋花だけでなく、それは他の3人にも通じて言えることです。
また、ダブルダッチを始める前の朋花を、温かく見守って付き合ってくれた
彩乃という女子生徒の良さも見逃せません。

爽快な、お薦めしたいヤング・アダルト小説です。

         

3.

●「トーキョー・クロスロード」● ★★☆      坪田譲治文学賞


トーキョー・クロスロード画像

2008年11月
ポプラ社刊

2010年03月
ポプラ文庫
ピュアフル
(560円+税)



2011/04/23



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普段とはかなり違った姿・恰好で、ダーツで決めた山手線の駅で降りて町を歩いてみる。それが高校2年生・森下栞の密かな楽しみ。
ところが、ある日偶然にも、中学の頃密かに恋心を抱いていた相手・
月島耕也と出会って・・・。

それから何度も耕也と出会い、一緒に町を歩く。しかし、女に手が早い耕也は、栞の仲介を経て栞の友人である亜子と付き合い始める。
一方、栞のクラスには、留年を重ねた2歳年上の同級生が2人いる。一人は
河田貴子、もう一人は青山麟太郎。クラスから何となく浮いた感じの2人ですが、栞はこだわりなく2人に話しかけ、2人もまた栞には親しみを見せます。

栞自身が自分について思っていることと、友人である同級生2人が栞について感じていること、そして栞が新たに親しくなった貴子、そして麟太郎とそのバンド仲間という年上の人たちから見た栞という女の子像には、各々ズレがあります。
そのどれかが間違っているということではなく、そのどれもが栞の一面であると言って良いのでしょう。
それらズレ、多様な側面こそ、青春期特有のまだ定まらない人間性の現れと言えるのではないかと思います。

東京という街の中で、様々な人たちと交錯する。その只中にいる女子高生の恋に揺れる思いを描いた青春小説。
清新にしてどこか怜悧さを感じるところが本作品にはあります。主人公である栞が、自分を突き放して見ようとしているからでしょうか。でも、その冷たさが、本作品にあってはむしろ気持ち良く感じられます。
都会的でシャープな女子高生版青春ストーリィ。私好みです。

    

4.

●「レッドシャイン」● ★★


レッドシャイン画像

2009年04月
講談社刊
(1300円+税)



2009/06/01



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秋田県の大潟村で毎年開催されるソーラーカーレース。
その大会への出場を目指す、高等専門学校生たちの部活もの青春ストーリィ。

部員が集まらず2年に亘ってレースに出場できなかったさきたま工業高等専門学校エネルギー研究会。今年こそはと新入部員を募り、復活出場を目指す。
主人公となるのは、少々手を借りたいと言われ、訳も判らぬまま承知した電気工学科の3年生、澄川怜
“レッドシャイン”とは、彼らエネ研が所有するソーラーカーの名前。

個性的な部員に個性的な顧問。エネ研に参加した理由は各人それぞれあろうと、いつしか我等のソーラーカーが爽やかな風の中で疾走する姿に胸を躍らせ、心をひとつにしていく。
そしてそこはやはり青春期、失恋もあれば淡い恋、予想外の恋もあります。
青春・学園・部活小説の定石どおりというストーリィですが、だからどうしたっ、ていうくらい爽快な青春小説。
主人公のみならず読者も、次第にソーラーカーへの夢を膨らませ、ついにレースでその疾走する爽快感、解放感を共に味わえるのですから。

なお、主人公の怜は、何でも器用にこなしてしまうその才能を見込まれてエネ研にスカウトされたという次第。
何でも器用にこなせてしまうからこそ逆に目標がつかめないでいるという悩みあり、という設定ですが、不器用な人間からしてみるとやはり羨ましいです。
そんな怜の恋模様も本作品の魅力のひとつ。

    

5.

●「碧空の果てに」● ★★


碧空の果てに画像

2009年05月
角川書店刊
(1500円+税)

2014年02月
角川文庫化



2009/07/21



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子どもから大人まで、全ての読者に物語(ファンタジー)の喜びを伝えようという“カドカワ銀のさじシリーズ中の一作。

小さなユイ王国の姫メイリン17歳は、聡明な美女であり国中で一番の馬術の名手であるが、並外れた大力の持ち主。そんなメイリンに対し父親である国王は、夫の陰となり夫を支える妻という生き方を強制しようとする。
そうした生き方に疑問を持ったメイリンは、自分が自分らしく自由に生きられる場所を求め、愛馬に乗って国を出奔する。
行き着いた先は、住民が首長を選ぶという賢者の国シーハン
現在の首長ターリは車椅子生活者ながら、シーハンの侵略を狙う大国アインスから鋭い頭脳で国を守っていた。
メイリンは男装してターリの従者となり、その“足”となってシーハンの国ために働こうと決意する。

若い女性を主人公とするファンタジー冒険物語。
上橋菜穂子さんのファンタジー冒険物語守り人」シリーズ女用心棒バルサを思い出しますが、バルサのような孤独と厳しさを背負った魅力には欠けても、その分溌剌とした凛々しさを備えているメイリンが主人公ですから、大人が読んでも楽しい児童向けのファンタジー冒険物語に仕上がっています。
単純明快に過ぎるところはありますが、主人公のメイリンを始めとして登場人物は皆生き生きとしていますし、勧善懲悪という単純パターンに留まらない懐の深さも持っていて、読んでいて十分に惹き付けられます。
やや物足りなさを感じるところはありますが、物語として優れているかどうかは、ストーリィの完全性より、読んでの楽しさにある、とすれば、本書もまた優れた物語のひとつ。

     

6.

●「白い月の丘で」● ★★


白い月の丘で画像

2011年01月
角川書店刊
(1600円+税)

2014年06月
角川文庫化



2011/06/07



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碧空の果てにに続く、“カドカワ銀のさじ”シリーズ中の一作。
「碧空」とは全く別の物語ですが、繋がるところもあります。
どう繋がっているか、全貌が判るのは結末部分ですが、「碧空」を既に読んだ方ならそれを見つけ出すのも楽しみの一つとなるでしょう。

さてストーリィ。時代は「碧空」の次世代、そして舞台は大国アインスに敗れ、その支配下に置かれた小国トールです。
国を滅ぼされた後、シーハンに逃れてそこで一市民として成長した元王子の
ハジュン。10年ぶりに故国へ戻ってきます。
身を寄せたのは国王であった亡父が親交を結んでいた鞋作りの名人
ラントゥの元。そこには、幼馴染で笛の名手であるマーリィがいた。
そのマーリィの元に笛を習いに通うアインスの青年=
カリオル。貧乏貴族の息子と名乗っていますが、後日ハジュンは、彼がアインス王の跡継ぎとなる王子であると知ります。
マーリィの笛、ハジュンの琴、カリオルも笛と、3人が揃って
ションヤンの丘の上で合奏する姿はまさに美しいものですが、周囲は3人をそのままにしてくれはしません。
やがてハジュンは、武力蜂起を企てるトール人の一派に巻き込まれ・・・、というストーリィ。

大人の目からすると物足りなさを感じるところはありますが、そこは“銀のさじ”シリーズ作品ですから、仕方ないところでしょう。
その一方、国とはどうあるべきかというハジュンの思い、またハジュン・マーリィ・カリオルの3人が友誼と互いへの信頼を基に次代を切り開いていこうとする姿には、清新な魅力があります。
子供の気持ちを取り戻せば、十分に楽しめる一冊です。

           

7.

●「木工少女」● ★★☆


木工少女画像

2011年03月
講談社刊
(1300円+税)



2011/04/24



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都会っ子の立石美楽(みらく)、12歳。
翻訳家である父親が、山奥にある村立寄宿制高校の1年限りの臨時教員を引き受けたことから、小学校最後の1年間を峯川村で過ごすことになります。
地元っ子ばかりかつ少人数のクラスに、1年限りの転校生1人。
早や6月で
「やってられん! あたしは東京に帰る!」と宣言した美楽が夏休み後も峯川村に戻ってきたのは、木工芸品を制作している明野工房の主=明野伝造さんと知り合い、木のもつ魅力に惹かれたから。

明野工房に入り浸り、自分でも木の加工を手探りながら始めた少女と木の触れ合い物語。そして、なかなか馴染めなかった山奥の小学校で、都会っ子の美楽が徐々に同級生たちと馴染んでいく姿を描いた小学生物語。
つまりは、木々に囲まれた暮らしの中で、木の魅力を見出した少女の成長ストーリィ。

ストーリィ自体魅力があるのですが、まずは主人公である美楽のキャラクターがすこぶる楽しい。
年上の高校生や伝造さんに対し遠慮ないタメ口を利く癖に、学校では大人しく舐められっぱなし、という面白い女の子。
星2つ半評価は、美楽のキャラクターに依るところ大です。

都会から山奥へという物語の面白さでは、三浦しをん「神去なあなあ日常を思い出します。
また、物作りの楽しさという点では、
まはら三桃「鉄のしぶきがはねるに共通するところがあります。物作り物語、もしかするとこれから流行るのかも。

            

8.

●「紅に輝く河」● ★★


紅に輝く河画像

2012年01月
角川書店刊
(1700円+税)

2014年09月
角川文庫化



2012/10/27



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碧空の果てに」「白い月の丘でに続く“カドカワ銀のさじ”シリーズシューマ平原の国々を舞台に描くファンタジー冒険物語の3作目。
碧空=賢者の国シーハン、月の丘=一度滅ぼされた王国トールときて、今回舞台になるのは
ファスール王国です。
シューマ平原の南西に位置するファスール、王の血は娘によって受け継がれ、国母の夫が国王として、神官が得た託宣に基づいて政治を行うという体制。また他国との交流が余り無く、半ば鎖国状態という珍しい国です。
その王国で国母が生んだ王女
アスタナ、一人の神官が不吉な託宣を得たことから、3日違いで第二夫人が生んだ第二王女アルマラと両母親が知らぬままに入れ替えられて育ちます。
そして2人が成長した今、アスタナは学問好きで自由奔放、常に男装の王女として知られていた。彼女は、制止されても構わずに庶民の中に分け入っていき彼らとも親しむ。
その頃、シーハンからの留学生としてファスールの学寮に入ってきたのが、美青年の
サルー
アスタナとサルーが再び相見えた時から、2人の運命的な冒険と恋が始まる、というストーリィ。

アスタナというヒロインの魅力は傑出しているものの、前2作程の面白さはないと感じていたのが前半。ところがどうしてどうして、終盤から一気に面白さ全開となります。
ファンタジー冒険物語の面白さとは別に、国とは本来どうあるべきかという命題が共通してこの平原物語シリーズにおいて描かれているからでしょう。
児童向け作品である故にストーリィ展開には少々粗さ、強引さがあるものの、ドラマチックという点では一般小説に全く引けを取りません。

※終盤、シーハン国公使として
メイリンも登場、本物語が「碧空」〜「月の丘」から連なる物語であることは明らかです。
上橋菜穂子「守り人」シリーズのような壮大なスケールをもつ物語ではありませんが、逆に小粒なファンタジー物語の面白さを堪能させてくれるシリーズ。ファンタジー好きな方にはお薦め。

         

9.

●「レガッタ! 水をつかむ ★★


レガッタ!画像

2012年06月
講談社刊
(950円+税)



2012/10/28



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ヤングアダルト向け“YA! ENTERTAINMENT”シリーズの一冊。
濱野さんについては高専生たちがソーラーカーレースに挑戦する青春部活もの
レッドシャインが面白かったので、本書についても期待大でした。
その本書、女子高ボート部を舞台にした青春部活ストーリィ。

主人公の有里(あり)、成績重視・スポーツ軽視の父親から中2時にレギュラー獲得寸前のバドミントン部から無理やり辞めさせられた経緯があり、目標の女子高に入学したことから改めて部活にと熱意を燃やす新入生。
ところが1年間バドをやっていなかった差は大きく、これではレギュラー獲得無理。それなら皆初心者の部と考え、インターハイ出場常連であるボート部に入部。しかし、後から入部した所為か、他の1年生部員から疎外されがち。それでも自宅での鍛錬を重ね、エースを目指す。

ボート部の練習、競技の様子がもの珍しく、楽しい。
また同学年生間の葛藤、変化、友情など、スポーツ部活ものの王道部分も十分読ませてくれます。
高校生活をエンジョイするどころか、何でこんなに苦労してまで、という体育系部活ストーリィだからこその爽快さあり。
スポーツ小説が好きな方にはお薦めです。

高校女子ボート部というと敷村良子「がんばっていきまっしょいを思い出しますが、時代も違う所為か印象も異なります。

                  

10.

「レガッタ!2 風をおこす ★★


レガッタ!2画像

2013年03月
講談社刊
(950円+税)



2013/04/29



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女子高ボート部を舞台にした青春部活ストーリィレガッタ!の続編。
本巻は主人公=
飯塚有里らが2年生になっての物語です。

まずは有里たちが新入生を迎えるところから始まります。
そしてインターハイが終れば3年生は部活引退、ボート部新部長にはる香、新副部長に有里という布陣。
2年生になっても1年生時と変わらず、苦難、挫折、低迷、気を取り直しての再スタートという展開があります。2年ともなれば恋愛要素も加わります。さらに今回は上級生として新入生たちへの指導という負荷と責任が加わります。
有望新人もいれば問題児もいると、それはいつの年次でも繰り返されることでしょう。
それを乗り越えて部活なりのチームワークが作られるというのが体育系部活の定例パターンであろうかと思いますが、ボート競技における“風をおこす”というキャッチフレーズと合わさって、とても爽快です。

しかし、本当に高校生の部活期間って短いですね、2年+αですから。主人公たちが感じるまでもなくあっという間。
本書ストーリィの中においても、早やこの後どう進むのかという選択が語られていますし。それでも、次の段階に向かって希望の選択肢があるということには清新さを感じます。

爽快な青春部活ストーリィ、この後の巻も楽しみです。

       

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