羽田圭介作品のページ


1985年生、明治大学卒。高校生の時に応募した「黒冷水」にて第40回文藝賞を受賞し、18歳にて作家デビュー。2008年「走ル」にて、10年「ミート・ザ・ビート」にて芥川賞候補、15年「スクラップ・アンド・ビルト」にて 第153回芥川賞を受賞。


1.
ワタクシハ

2.
スクラップ・アンド・ビルド

  


     

1.

「ワタクシハ」 ★★


ワタクシハ

2011年01月
講談社刊
(1500円+税)

2013年01月
講談社文庫化



2011/02/06



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高校2年の時TVのオーディション番組に応募してギタリスト部門1位となり、組成されたヘビメタバンドでメジャーデビュー、紅白歌合戦にも出場した経歴のあるTAROこと山木太郎
しかし、今やバンドは既に解散済、ギタリストとしての仕事もジリピンという一方で、現役の大学3年生。
ふと気づくと、恋人や周りのサークル仲間たちはシューカツ(就職活動)に身を投じようとしていた。
自分が今度どうしたいのかも判らないまま、流れに巻き込まれるようにして太郎もシューカツを始めることになります。
しかし、そのシューカツは、太郎が思ってもいなかった世界。メジャーデビューの経歴など初戦は突破しても、最終面接突破の役にはまるで立ちません。
ズバリそのまま、本書はリアルかつシュールなシューカツ小説です。

それにしても異様だなぁ、と思う。
オリンピックのメダル争いのように幾つもの内定をとって喜んでいるって、一体何なの? 内定がとれなければ1年以上もシューカツを続けるのか? 内定をとることだけが目的になってしまってはいないか?
長く続く不景気ゆえの就職氷河期という状況はあるにしろ、余りにマニュアル化し過ぎていて不気味。
まぁ自分の時はどうだったのかと問われると、就職協定が今より縛りがあった所為かこれ程の不景気ではなかった所為か異なるところはありますが、所詮五十歩百歩だったのかもしれません。
主人公の山木太郎、ギタリストの道と就職を両天秤にかけているところがあるだけでなく、音楽世界での厳しい現実を体験してきた経歴があり、でもシューカツは安易に仲間と同じ先に応募していると、他のシューカツ学生とはちょっと違った面があります。だからこそ、シューカツも客観的に、懐疑的に眺める視線を持っている、というところが本書のミソです。

進展も成長もないまま、ただ延々とシューカツ活動が続くといった、まるで体験記の如きリアルな小説。さて、貴方ならどう感じますか。

      

2.
「スクラップ・アンド・ビルド ★★☆     芥川賞


スクラップ・アンド・ビルド

2015年08月
文芸春秋刊
(1200円+税)

2018年05月
文春文庫化


2015/08/30


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カーディラーを中途退職した主人公の健斗は、再就職活動中ながら三流大学卒で何の技能もないとあって苦戦中。
自宅は多摩グランドハイツ、働いている母親と、ディケアサービス等利用中の祖父と同居中。
老いて身体の動きが不自由な祖父に対し、さっさと動けと、母親の言動はかなり手厳しい。
楽に早く死にたいとしきりにボヤく祖父、しかし自分で決行する勇気はないらしい。
さて孝行孫たる健斗、どうしたら祖父の願いを叶えてやることができるのか。まず実行したことといえば、祖父が余り動かずに済むようにし、身体を弱らせること・・・・。

“孝行”の内容が現代ではすっかり変わってしまったのか。
ブラックユーモアのようですが、一方で現実的な思考と言ってしまうと、現代社会の闇を感じる気分にもなります。

母親と健斗、いったいどちらの言動が祖父のためになることなのか。中途半端な気持ちはかえって良からぬ結果を招きかねないという、健斗の友人である
大輔の冷静な助言には、胸をグサッと突きさされる気持ちになります。
要は、生きていくにも死んでいくにも自分の思いを達成するためには勇気と行動力が必要、と言うことでしょうか。
現代社会の“老後”、もはや老人も自力で立たなくてはいけないのかと思うと、子も孫も楽ではありませんねぇ・・・・。

   


  

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