冬森 灯(ふゆもり・とも)作品のページ


第1回おいしい文学賞にて最終候補。同作「縁結びカツサンド」にて作家デビュー。


1.縁結びカツサンド

2.うしろむき夕食店 

3.すきだらけのビストロ 

 


                   

1.
「縁結びカツサンド ★★


縁結びカツサンド

2020年07月
ポプラ社

(1600円+税)

2022年08月
ポプラ文庫



2020/08/11



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第1回「おいしい文学賞」の最終候補作。
惜しくも受賞は逃しましたが、本作も十分楽しめました。他所行きではなく、普段着気分で楽しめる処が良さです。

舞台は、東京の駒込<うらら商店街>にある、昔ながらの町のパン屋さん「
ベーカリー・コテン」。
三代目の
音羽和久・29歳は、亡祖父創業の店を継ぐ資格が自分にあるのか、店名である「コテン」の意味も分からないしと、ずっと悩み中。
ただし、本作はその和久を直接主人公にするのではなく、和久の周辺にいる人物たちを各篇の主人公に据えた連作ストーリィ。
それぞれ人生のちょっとした岐路に立っている人物たちの葛藤を描くと同時に、それと歩調を合わせるように和久も一歩前進、という構成。

篇を進むにつれ、和久を囲む、応援する人たちが増えていく、という展開が楽しい。
やはり商売となれば、応援してくれる仲間たちが多くいてこそ、ですから。
見た目がお洒落で、まるでデザートのような美味しさを味わわせてくれるパンも勿論良いのですけれど、それと対照的に日常的な昔ながらのパンも良いものだと思います。

・「まごころドーナツ」
:結婚を控える理央・29歳、恋人の秀明と連絡が取れなくなり、不安・・・。
「落描きカレーパン」:就活にことごとく失敗している守田大和、自分のどこに問題があったのか・・・。
「花咲くコロネ」:仲良しのミユキちゃんと会えなくなって寂しい小学生の花、何とか乗り越えようとするのですが・・・。
「縁結びカツサンド」:商店街を挙げての夏祭り、和久も屋台出店するのですが、肝心のものが届かず・・・。

1.まごころドーナツ/2.楽描きカレーパン/3.花咲くコロネ/4.縁結びカツサンド

                      

2.
「うしろむき夕食店 ★★☆


うしろむき夕食店

2021年02月
ポプラ社

(1600円+税)

2023年05月
ポプラ文庫



2021/03/20



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路地裏奥にある家庭的な料理店<夕食店シマ>。その店の名物は“料理おみくじ”
料理人で元芸者だったという店主の
支倉志満(しま)と、その孫娘の希乃香(かおり)が「お帰りなさい!」「いってらっしゃい。明日もいいお日和になりますように」と明るく客たちを迎え、送り出してくれます。
悩みや鬱屈を抱えて店を訪れた客は、料理おみくじに託された志満の言葉に励まされ、勇気を以て新たな一歩を踏み出します。

居心地の良い料理店から客たちが再挑戦への転機をもらうという展開は、今や多くある連作小説のパターン。もはや珍しいものではありません。
それでも、本作、とても好いんだなぁ。

家庭的な料理に付されたおみくじ、志満の思いが篭められたその言葉が実に良い!
迷ったり、鬱屈を抱えたりする時があるのは、誰でも当たり前のこと。
そんな気持ちに寄り添い、さりげなくかつ優しく背中を押してくれる言葉の数々は、平凡ですけど、的確な人生訓。
でもそれをきちんと受け入れられるのは、各主人公たちの心の中に善性があるからでしょう。

各章における、今この時の人生ドラマは誰にも共通する身近なものばかり。仕事上のことだったり、人生選択や嫁姑問題だったりと。
それに加え、謎の怪人?
“ごちおじさん”追跡や、希乃香の今後が掛かった見知らぬ祖父探し、という全章を横断するストーリィ要素も面白さ尽きません。

最後を締めるのがいつも「乾杯!」であるのも、宜しき哉。


1.願いととのうエビフライ/2.商いよろしマカロニグラタン/3.縁談きながにビーフシチュー/4.失せ物いずるメンチカツ/5.待ちびと来たるハンバーグ/おまけの小皿

                   

3.
「すきだらけのビストロ−うつくしき一皿− Le bistro plein d'amour ★★




2023年03月
ポプラ社

(1650円+税)



2023/09/06



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題名の「すき」、てっきり「隙」かと思い込んでしまったのですが、「好き」でした。

シロクマのような容姿で料理バカの
シェフ=有悟、それと対照的に冷静で猫のような身のこなしを見せるギャルソン=颯真は、何と実の兄弟。
二人はキッチンカー&トラックで全国各地を回り、野外ビストロを訪れたその地で開店しています。
その店の傍らにはいつも、音楽や美術等々、何らかの芸術が開催されています。

有悟の説く「世界で一番おいしい料理」とは?
判るなぁ。是非お楽しみに。
なお、二人の店の名前は<
ビストロつくし>。
「つくし」とは奇妙な名前?と感じたのですが、その意味は? それもどうぞお楽しみに。

ストーリィは、有悟と颯真が、かつて有悟を支援してくれた謎の人物「
」を探して全国を廻る長篇部分と、各地で<ビストロつくし>に偶然出会い、その料理を味わったおかげで希望を手にする人たちを主人公にした一幕のドラマ連作という、二重構成。

有悟が各篇主人公たちに提供する、その思いを込めた料理<スペシャリテ>の数々、読むだけでも美味しそうです。
※実際に、ビストロつくしのテントで料理を味わえたら、さぞ美味しいでしょうねぇ。


 ビストロの朝食〜おいしいパンとよい酒があれば〜/
ヴィルトゥオーゾのカプリス−真鯛のグリエ、アメリケーヌソース−/
マエストロのプレジール−仔牛のポワレ、パレット仕立て−/
 ギャルソンの昼食〜クスクスの中でペダルを漕ぐ〜/
シュヴァリエのクラージュ−地鶏のコンフィ−/
トルバトゥールのパシオン−自家製ソーセージ、アリゴ添え−/
 シェフの夕食〜ニンジンは煮えてしまった〜/
ピオニエのメルヴェイユ−夕暮れブジヤベースと船−/
フィロゾフのエスポワール−伊勢海老と帆立貝のメダイヨン−/
 ビストロのデザート〜最後のものにうまいもの〜

       


   

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