藤本ひとみ作品のページ No.2

 

11.聖アントニウスの夜

12.マリー・アントワネットの生涯 

13.暗殺者ロレンザッチョ

14.預言者ノストラダムス

15.バスティーユの陰謀

16.聖ヨゼフ脱獄の夜

17.マダムの幻影

18.恋情 (文庫改題:エルメス伯爵夫人の恋)

19.貴腐

20.ジャンヌ・ダルクの生涯

 

【作家歴】、ルボンの封印、逆光のメディチ、コキュ伯爵夫人の艶事、ハプスブルクの宝剣、鑑定医シャルル・シリーズ3作(見知らぬ遊戯・歓びの娘・快楽の伏流)、ウィーンの密使、大修院長ジュスティーヌ、聖戦ヴァンデ、侯爵サド、侯爵サド夫人

→ 藤本ひとみ作品のページ No.1


離婚まで、悪女が生まれる時、ジャンヌ・ダルク暗殺、パンドラの娘、悪女の物語、変態、新・三銃士−ダルタニャンとミラディ−

→ 藤本ひとみ作品のページ No.3


→ 
藤本ひとみ歴史館

→ 藤本ひとみ・コバルト系作品のページ

 


 

11

●「聖アントニウスの夜 LA NOIT de SAINT ANTOINE 」● 
 (文庫化時改題:「聖アントニウスの殺人」)



1998年05月
講談社刊
(1500円+税)

2001年07月
講談社文庫化


 
1998/05/26

「衝撃の歴史サイコ・ミステリー」という宣伝文句なのですが、 ちょっと期待はずれ。

内容としては、鑑定医シャルルものからシャルルという興味深い主人公を取り去り、時代設定をフランス革命勃発時まで巻戻した、というもの。
ミステリーの真相も、シャルルものを読んでいると予想するのに難しくない、といったところで新鮮味を感じませんでした。
もっとも、シャルルものを読んでいなければ別な感想をもたれるかもしれません。
でも本作品よりはシャルルシリーズをお薦めします。
とはいえ、フランス革命勃発時の社会世相を見て取るという視点はあるかもしれないなぁ。藤本さんはフランス革命を背景にした作品が多いので。
あと注目すべきは、少年ながら一人前の悪党ヴィドックが登場することかもしれません。

 

12

●「マリー・アントワネットの生涯」● 




1998年07月
中央公論社刊

(1600円+税)

2001年06月
中公文庫化

1998/09/15

小説ではなく、カラー図版60点収録の歴史エッセイとのこと。
アントワネットの華麗で悲劇の足跡を辿る本書は充分に面白く、事実は小説に勝る(本作>「ウィーンの密使」)、という印象です。
藤本さんは「ハプスブルクの宝剣」の取材で父フランツと母マリア・テレジアの人物をよく調べており、その延長でアントワネットの人物像を分析しています。
マリア・テレジアの自分の考えに固執する性格は、オーストリアを強力な国家とするのに役立った。しかし、アントワネットの場合にはそれにフランツの軽薄さが加わって裏目となることばかり、と分析されると納得感充分。
こんなわがまま娘を押し付けられたルイ十五世、フランス国民こそ悲劇と言えますが、一方のハプスブルク家にしても後悔していたのではないでしょうか。といって今のように簡単に離婚もできないし。
結果的にはフランス革命という歴史の中で免責されたのでしょう。
本書を読むなら、「ハプスブルクの宝剣」の後がお薦め。

 

13

●「暗殺者ロレンザッチョ Lorenzaccio l'assassin 」● 




1998年10月
新潮社刊
(1600円+税)

2001年10月
新潮文庫化
(476円+税)

1998/11/05

amazon.co.jp

逆光のメディチから時代が進んだフランスでの話。国王フランソワ一世の宮廷では、国王の愛妾と王太子アンリの愛人が互いに競い合っていた。メディチ家からアンリの元に嫁いできたカトリーヌ・ドゥ・メディシスは、メディチ家本家の後継者であったが、この異郷の地では無視されたような存在。
その中でひときわ異色なのがロレンツィーノ・メディチ、フィレンツェ公爵アレッサンドロ・メディチを暗殺後、フランス宮廷に逃げ込んで来た人物です。
フランスらしい愛妾、愛人と艶っぽいところから始まった本書は、何故ロレンツィーノがアレッサンドロを暗殺したのか?というフィレンツェを舞台にした陰翳ある告白が中心になります。
正直言って、この物語をどう捉えれば良いのか戸惑います。華やかな歴史絵巻ではまるでありません。むしろ、ロレンツィーノ、カトリーヌとルネッサンスの世界から絶対王制に紛れ込んだ二人の屈折感が目立ちます。その点では、むしろ「侯爵サド」に近い作品と思えます。
最後に至って、漸く腑に落ちたような気分。歴史絵巻というより、屈折した人間像を歴史の中に見つけた、人間ドラマでしょう。ちょっと複雑さのある作品です。

カトリーヌ・ドゥ・メディシスについて

 

14.

●「預言者ノストラダムス(上下) Nostradamus,le prophete 」● ★★
 
※文庫改題:ノストラダムスと王妃(上下)




1998年12月
集英社刊
上下
(1600円+税)

 2002年02月
集英社文庫化
(上下)

 
1999/01/15

 
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ちょうど暗殺者ロレンザッチョに続くストーリィ。
本作品の主人公はイタリア・メディチ家からアンリ二世の妃となったカトリーヌ・ドゥ・メディシス。彼女は王妃となった今もフランス宮廷で冷遇されている状況にあります。
そんな中、彼女はアンリ二世、彼女の長男フランソワ二世と続く時代において、王妃としての闘いに自ら乗り出します。預言者ノストラダムスの力を支えに。というのが本書の題名の所以です。
読み進みながらふと思い出してしまうのは、
ハプスブルクの宝剣。異郷、異なった人々の中で自分の才覚と支えてくれる人だけを頼みとして孤軍奮闘する姿は、同書と通じるものがあります。
俯瞰的に見れば単なる権力闘争と言えるのですが、権力闘争に常のギラギラした感じはありません。カトリーヌの内に、常に妻・母の心を持たせていることもあるでしょう。
口当たりの良い仕上がりになっている、そのあたりが藤本さんの描く歴史小説の尽きることない魅力です。
ノストラダムスとカトリーヌの関係は、読んでいて快いです。ノストラダムス自身も、なかなか魅力ある人物に書かれていますし。
また、権力闘争の背景に当時のフランスの状況もしっかり書かれていて、歴史を知る楽しみもあります。
さあ、これ以上は読んでのお楽しみです。(^^)

カトリーヌ・ドゥ・メディシスとノストラダムスについて

 

15.

●「バスティーユの陰謀」● 

 

 
1999年04月
文芸春秋刊

(1429円+税)

 2002年06月
文春文庫化

 
1999/05/13

フランス革命の発端となった、パリ民衆によるバスティーユ攻撃、陥落を描いた作品。
時間的にごく短期間で、限られた事実だけに的を絞った歴史ものであることから、藤本作品としては小品という印象です。
主人公は、友ガスパールの意思を継いだジョフロアという名のギャルソン(給仕)。ただし、物語の主人公というより、バスティーユ攻防という歴史劇へのガイドと理解しておいた方が良いと思います。
どんな風にバスティーユ攻撃へとパリ民衆が走り、それが何故フランス革命にまで至ったのか。
本書を読むと、民衆が意図したこととは全く別に事態は進み、その思わぬ結果として革命が起きてしまった、という観があります。しかも、当の民衆たちときたら、革命の何たるかをまるで理解していなかった、と。
時代のうねりの中で、渦中にいた人々の血が騒いでしまった。そんなことに、歴史のもつ滑稽さの典型を見る思いがします。勿論、後の聖戦ヴァンデのような悲惨さはなく、革命前夜の大騒ぎといったところです。
革命前後のストーリィを楽しむなら、サバチニ「スカラムーシュ」(創元推理文庫)が断然面白かったなあ、と思い出されます。

 

16.

●「聖ヨゼフ脱獄の夜 L'EVASION de La NOIT de SAINT JOSEPH 」● ★☆




1999年07月
講談社刊
(1600円+税)

 

1999/07/31

聖アントニウスの夜に登場したヴィドックが、主人公として再登場。前作同様、フランス革命勃発の混乱期を背景とするストーリィです。
帯文句には、世界初の探偵にし「レ・ミゼラブル」のモデルとなった伝説的悪漢ヴィドック」とあります。本当なのでしょうか。
まだ少年ながらいっぱしの悪漢ヴィドックが、モメリアン要塞の牢獄に移ってきます。冒頭から緊迫感を一杯にはらんでいて、これからどう展開するのか、期待感にワクワクさせられます。
当時の牢獄の悲惨さ、革命期特有の確執、そして秘められた謎。ヴィドックは果敢にそれらへ挑んで行きます。
ストーリィは、その期待感の割りにスケールが小さく、それでいて各登場人物への興味は尽きず、かつ読者の興味を少しもそらさずに、しかも読み易くうまく仕上げている、というなかなかの作品です。技術賞!とでも言いたい気がします。
ストーリィ・テラー、藤本ひとみさんの充実ぶりを感じさせられる1冊です。

※題名から、脱獄のスリリングを期待される方もいるかと思います。その方へは、実例を描いた吉村昭「破獄」をお薦めします。まさに、事実は小説より奇なり、です。

 

17.

●「マダムの幻影」● ★★




1999年10月
朝日新聞社刊
(1800円+税)

  
1999/10/11

 
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題名にある「マダム」とは、マダム・ロワイヤルと呼ばれた、マリー・アントワネットのマリー・テレーズのこと。本書は、ナポレオン失脚後、王政復古により王位に就いたルイ18世の時代のストーリィです。
革命、王政復古という嵐のような時代変遷の中で、人の運命も様々に翻弄された訳ですが、本書の主人公である助任司祭ルナールもその中の一人。そしてまた、ルナールの元に亡父の日記を持ち込んできたカロリーヌも同様の一人。
カロリーヌの父親は、マリー・アントワネットの裁判における、彼女の弁護士を勤めていた。そして、その日記とは、マリー・テレーゼに対するマリー・アントワネットの遺言を伝えるものだった、というストーリィ。
正直言って、歴史小説の醍醐味という点では、ちょっと物足りなさがあります。しかし、それでいて、王制復古時代の様相、主要な登場人物であるルナール、カロリーヌ、マリー・テレーゼへの興味に読者を引っ張っていく辺りは、藤本さんの相変わらず上手いところです。
この作品は、単独で読むには物足りませんが、革命ものをずっと読み続けてきたのであれば読まない手はない、という作品です。

 

18.

●「恋 情」●
 
(文庫改題:エルメス伯爵夫人の恋)

 


2000年05月
講談社刊
(1600円+税)

 2004年12月
新潮文庫化

 
2000/06/13

本書は、「恋情」「接吻」というフランス革命前後を背景に恋愛絡みの 中篇2作を収録した一冊。
正直言って、つまらなかった、というのが第一の思いです。

「恋情」は、貞淑な妻である伯爵夫人プリュネルが、再婚した夫の息子、20歳も年下のエザンスに初めて恋を覚え、結局身も心も焼き尽くしてしまうというストーリィ。ただそれだけのこと。
不満のひとつは、プリュネルの乳母のろくでもない点。「女の子は仰向けに転ぶんですよ」「一夜を共にしたロミオなんて忘れて親の勧める相手と結婚すればいいんです」と言い放った、ジュリエットの猥雑な乳母(「ロミオとジュリエット」)の方がどれだけ納得感があることか。

「接吻」は、ルイ15世の愛妾として知られたデスタンプ侯爵夫人ジャンヌ・ゴマールが、牢から処刑台に至るまでの僅かな時間に、昔ジャンヌに憧れを抱いていた処刑人シャルル・アンリをいかに篭絡しうるものか、を描いた作品。さもありなん、という面白みは少し感じますが、それまでのこと。
歴史小説における恋愛絡みの小品2作と言うべきでしょう。

 

19.

●「貴 腐 La Pourriture Noble 」● 

 

 
2000年11月
文芸春秋刊
(1429円+税)

2003年10月
文春文庫化

  
2000/12/10

本書は、フランス革命を背景にした官能風中篇小説、 「貴腐」「夜食(スペ)」の2篇を収録した一冊。

マンネリ化しつつあるなあ、というのが正直な気持ちです。
「貴腐」は、革命の女神に祭り上げられようとした元貴族の女性が語る、貴族たるが故の、貴族における性愛ゲームが主題。その生贄となるジュリエットへの仕掛けに興味が惹かれますが、その結果はありきたりで、ちょっと失望します。

むしろ「夜食」の方が面白みはありました。修道女が老齢になってから性の悦楽を覚えるに至ったという、その経緯を語るストーリィ。革命のため修道院を追い出された老女アレクサンドリーヌと、年若い姪テオドリーヌ、冷酷な美男司祭リュシアンという、3者間のドラマです。スリリングさのあるところがミソですが、聴き手としてマルキ・ド・サドが登場していなければ、平凡な印象に終わったかもしれません。サド「閨房哲学」の契機となった話ということが薬味となった ようです。
大修院長ジュスティーヌのような刺激性に欠けてきたことが、物足りなさに繋がっています。

  

20.

●「ジャンヌ・ダルクの生涯 La vie de Jeanne d'Arc 」● 




2001年01月
講談社刊
(1700円+税)

2005年09月
中公文庫化

 
2001/03/07

英仏百年戦争における“奇蹟の乙女”、ジャンヌ・ダルクの実像を追うべく、フランスで彼女の跡を訪ね歩いた歴史エッセイ。図版が68点と多く収録されているのが、本書の良い所です。
ジャンヌの事蹟を語りながら、藤本さんの個人的推測
、思いを大胆に織り込んでいますので、小気味よさがあります。しかし、帯にある「傑作歴史エッセイ」というのは、言い過ぎでしょう。
写真・図版等が多いだけに、頁数に比して文章部分は少なく、通勤往復の電車内でほぼ読み終わりました。気軽に読めるヴィジュアルな歴史案内書、というところです。特に新しさ、というものは感じません。
ジャンヌ・ダルクが、悲運な最後を遂げた若い娘ということもあり、歴史上忘れ難い人物であることは疑いありません。つい最近映画にもなりましたから、ジャンヌ・ダルクへの関心も強い時期でしょう。商業的には時宜を得た刊行かもしれません。
私はその映画を観ていませんが、彼女が登場する作品はこれまで3作読んでいます。シェイクスピア「ヘンリー六世・第一部」、バーナード・ショー「聖女ジョウン」、佐藤賢一「傭兵ピエール

ドンレミの奇蹟/ロワールの宮廷/オルレアンの謎/ランスの栄光/ルーアンの悲劇

   

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