藤井博吉作品のページ


1931年三重県生、早稲田大学文学部中退。84年「桃青・小田原町絵図」にて第43回小説現代新人賞佳作。

 


 

●「現銀掛値無しに仕り候−三井高利覚書−」● ★★

  


1994年7月
新潮社刊
(1748円+税)

 

 
1994/08/07

画期的な事業発想により、三井財閥の基礎=越後屋を一代で築いた、三井高利を描く時代小説です。
三井高利の人となり、事業発展のストーリィとも、共に良く書けている作品ですが、何より魅力的だったのは、高利という人の着想の素晴らしさ、そして見識の確かさです。
高利の父・則兵衛の時に、武家から商人に転身、しかし実際に松阪で商いを司ったのは、商家から嫁入りした母の珠法。高利の商才は、この母親からの受け継いだものでしょう。
高利はその四男で、江戸で修業した折早くもその商才を発揮しますが、所詮長兄の店のことであり、中途で松阪に戻されるという挫折を味わいます。
高利が再び活躍するのは、20年余りも後、江戸・京都の店を仕切っていた長兄が死去し、自由な動きができるようになってからでした。
しかし、若い時の高利の活躍ぶりを警戒する同業者の目をそらす為、息子たちが実務に当たったとの事。正妻との間の10男5女(内2人は早逝)が生きる訳です。
何より画期的だったのは・・・
1.商売の相手を武家から町人に切替えたこと(町人が急増していた事実を思えば当然) 2.慣習となっていたつけでの売りを止め現金売りに切替えたこと 3.正札商法の導入
また、良識的だったと思うことは・・・
4.武家・政事に距離をおいたこと 5.攻める時期と守る時期をわきまえていたこと
そして近代的だったことは・・・
6.息子たちに富を分配せず、合名会社のような、組織による資本の維持を言い残したこと
既存の同業者・本町衆による妨害との高利の闘いは、目を見張るものがあり、興奮する面白さです。
なお、高利の事業は、呉服店と両替商を併営し、後に御納戸御用・公金御用を承ってから、漸く世間に認知されたとのことです。

 


  

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