海老沢泰久作品のページ


1950年茨城県生、国学院大学卒。同大学折口博士記念古代研究所勤務を経て、著述業。88年「F1地上の夢」にて新田次郎文学賞、「帰郷」にて直木賞受賞。


1.
美味礼讃

2.監督

3.帰郷

 


 

1.

●「美味礼讃」● ★★★




1992年03月
文芸春秋刊

1994年05月
文春文庫化

 

1992/03/31

 

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美食家ブリア・サヴァラン「美味礼讃」 (邦題)という著作がありますが、それと異なり、本書は大阪あべの辻調理師学校の校長・故辻静雄氏をモデルにした小説です。

フランスの有名なレストラン“ピラミッド”のオーナーであるマダム・ポワンが登場するなど、事実の部分もあるけれども、あくまで本書は架空の物語を描いた小説です、というのが海老沢さんの後書きです。
でも、読者としては辻静雄さんの半生記を読む気分であることに違いはなく、その半生に魅せられて一気呵成に読み上げた、という一冊です。
西洋料理、しかも調理師の学校を目指して、辻さんのとった行動は徹底したものでした。アメリカで料理研究家の
メリー・フィッシャー、チェンバレンと逢い、さらにフランスに渡ってポワン夫人の下で手取り足取りの指導、昼夜と毎日2度のフランス料理体験。更にデュメーヌや、アンドレ・ピック、ポール・ボキューズの所へその自慢料理を食べに行く。独身時代には、私の一人でフランス料理を食べ歩いたりしていたので、その凄さが感じられます。
しかし、マドやボキューズらは何の謝礼も辻さんから受け取ろうとしない。フランス料理を求めて旅してきた日本人、フランス料理を愛するが故の無償の支援、たかが料理といえども、そこから得た感動は深いものがあります。
マダム・ポワン(マド)やポール・ボキューズらの辻さんに対する篤い好意、それを基に日本におけるフランス料理の流れを一人で作ったと言える辻さんのストーリィには、興奮と感動を抑えきれません。
勢いのまま一気に本書を読み上げましたが、残る余韻は大きなものがあります。

 

2.

●「監 督」● ★★★

 

1982年03月
新潮文庫刊

1995年01月
文春文庫化

 

1995/01/22

プロ野球の万年最下位チーム“エンゲルス”の監督に指名された広岡達朗が、如何にチームの体質を、選手の意識を変え、長島率いる常勝ジャイアンツと、ペナントレース最後の優勝を争うまでにチームを高めたか、というストーリィ。
とても面白い一冊、スリリングな展開が何よりの魅力です。登場人物たちが生き生きしているし、実在の人物とのスリ合わせに更に興味をかきたれられます。
本書はあくまで架空の人物・チームの話となっていますが、現実のチーム、選手に限りなく近い。そのことが、面白さを際立たせています。解説で
山口瞳さんが言っているように、野球小説は極めて難しい。しかし、本書は野球小説として見事に成功しているのです。
本書のモデルが、広岡達朗率いたヤクルト・スワローズであることは明らかです。登場人物のそれぞれが、ヤクルトの誰をモデルとしているのか、それを考えるのも楽しいものでした。

 

3.

●「帰 郷」● ★   直木賞


1994年03月
文芸春秋刊

1997年01月
文春文庫化

 

1995/04/15

表題作の「帰郷」は、自動車工場から短期間F1グランプリのメカニック・チームに選ばれたものの、その後戻った元の職場に適応できず、恋人とも別れ、 職場も止めるに至った男の物語。
夢を追うロマンの高まりと共に、その一方での現実の生活、興奮と平凡。相反する世界を行き来せざるを得なかった男の幸福と同時に不幸。
短篇という短さの中で、良く2つのテーマを描ききったことと思いました。

帰郷/静かな生活/夏の終わりの風 /鳥は飛ぶ/イブニング・ライズ/虚栗

 


 

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