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「どうしようもなくさみしい夜に」 ★★☆ | |
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風俗嬢として働く女性、そうした女性と関わりを持つ人物たちの姿を描く、連作ストーリィ。 風俗嬢と一口に言っても内容はいろいろなのでしょうけれど、本作では“デリヘル嬢”。 その言葉を聞くと私も含め一般的には、危ない仕事、余程の事情があるのか或いはまともに働く気がないのか、と考えてしまう気がします。 でも本作を読む限り、仕事内容が風俗であろうと、きちんと仕事をこなそうとしている女性たち、という印象が強い。 とくに頼れる身内がおらず、シングルマザーとして自分の子どもを一生懸命守っていこうとする、風俗嬢であり同時に母親でもある女性2人の姿には、胸を打たれざるを得ません。 ・5篇の中でも格別な思いを感じる篇は「今はまだ言えない」。 シングルマザーの母親は、デリヘル嬢として働きながら息子の夏希を一生懸命に育ててきてくれた。 その母親が突然、結婚したいと言い出す。良い相手と出会えたのかと思えば、相手はやせ細った老人。夏希のためのお金と介護のバーター取引であることは明らか。 小学校時代、母親の仕事がバレた所為でシカトされた夏希は、母親の気持ちが分かっていても、母親に反抗せざるを得ない。 その複雑な思いの中に、母親への感謝と愛情を感じます。 ・「雪解け」:大学時代、友人との旅行費用を捻出するため風俗に足を踏み入れた結衣。何故父親から嫌悪されたのか。 ・「落ちないボール」:風香とその娘=5歳のひかりと、もう家族同然だった翔は、デリヘルで働いているという風香の言葉に動揺してしまう・・・。 ・「ひかり」:風香のこれまでを辿る。追い詰められた風香を最後に救ってくれたのは・・・。 ・「折り鶴を開くとき」:デリヘルの店長を務めている夏希、その彼の心にある思いは・・・。 人に公言できないデリヘル嬢という仕事であっても、誰かが必要としてくれている、感謝されることもある・・・そしてそれが生きる支えとなっている、という言葉は、どんな仕事、生き方にも通じることであるように思います。 切ない思いを掬いあげるような連作ストーリィ、お薦めです。 今はまだ言えない/雪解け/落ちないボール/ひかり/折り鶴を開くとき |