千加野あい作品のページ


千葉県生、千葉県育ち。2019年「今はまだ言えない」にて第18回「女による女のためのR-18文学賞」友近賞を受賞し作家デビュー。

 


                   

「どうしようもなくさみしい夜に ★★☆


どうしようもなくさみしい夜に

2023年05月
新潮社

(1600円+税)



2023/06/13



amazon.co.jp

風俗嬢として働く女性、そうした女性と関わりを持つ人物たちの姿を描く、連作ストーリィ。

風俗嬢と一口に言っても内容はいろいろなのでしょうけれど、本作では“デリヘル嬢”。
その言葉を聞くと私も含め一般的には、危ない仕事、余程の事情があるのか或いはまともに働く気がないのか、と考えてしまう気がします。

でも本作を読む限り、仕事内容が風俗であろうと、きちんと仕事をこなそうとしている女性たち、という印象が強い。
とくに頼れる身内がおらず、シングルマザーとして自分の子どもを一生懸命守っていこうとする、風俗嬢であり同時に母親でもある女性2人の姿には、胸を打たれざるを得ません。

・5篇の中でも格別な思いを感じる篇は
「今はまだ言えない」
シングルマザーの母親は、デリヘル嬢として働きながら息子の
夏希を一生懸命に育ててきてくれた。
その母親が突然、結婚したいと言い出す。良い相手と出会えたのかと思えば、相手はやせ細った老人。夏希のためのお金と介護のバーター取引であることは明らか。
小学校時代、母親の仕事がバレた所為でシカトされた夏希は、母親の気持ちが分かっていても、母親に反抗せざるを得ない。
その複雑な思いの中に、母親への感謝と愛情を感じます。

「雪解け」:大学時代、友人との旅行費用を捻出するため風俗に足を踏み入れた結衣。何故父親から嫌悪されたのか。
「落ちないボール」風香とその娘=5歳のひかりと、もう家族同然だったは、デリヘルで働いているという風香の言葉に動揺してしまう・・・。
「ひかり」:風香のこれまでを辿る。追い詰められた風香を最後に救ってくれたのは・・・。
「折り鶴を開くとき」デリヘルの店長を務めている夏希、その彼の心にある思いは・・・。

人に公言できないデリヘル嬢という仕事であっても、誰かが必要としてくれている、感謝されることもある・・・そしてそれが生きる支えとなっている、という言葉は、どんな仕事、生き方にも通じることであるように思います。

切ない思いを掬いあげるような連作ストーリィ、お薦めです。


今はまだ言えない/雪解け/落ちないボール/ひかり/折り鶴を開くとき

        


   

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