朝倉宏景
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1984年東京都生、東京学芸大学教育学部卒。会社員を経て、現在はアルバイトを続けながらの執筆生活。2012年「白球アフロ」にて第7回小説現代長編新人賞奨励賞、2018年「風が吹いたり、花が散ったり」にて第24回島清恋愛文学賞を受賞。


1.野球部ひとり

2.風が吹いたり、花が散ったり

3.空洞電車

4.あめつちのうた

5.日向を掬う

  


     

1.

「野球部ひとり 


野球部ひとり画像

2014年07月
講談社刊

(1500円+税)

2017年03月
講談社文庫化


2014/10/21


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3年生が突如退部し、1・2年生部員8名だけとなって練習グラウンドさえ確保できなくなるという危機に直面した不良校と評判のシブ商(都立渋谷商業高校)野球部
キャプテンとなった
瑞樹は、顧問教師から他校との合体チームという手があると助言されます。ただし、その相手として挙げられたのは、名門進学校である都立自由が丘高校で、たったひとりの野球部員を続けている本多春一

余りに体質の違う不良校と名門進学校が合体チームを作れるのか、作ったとしてひとつのチームとしてプレーできるのか。
また、自由が丘野球部でマネージャーだったという
新川梨紗子も合体チームに参加しますが、チームをまとめる鍵になれるのか。

春一が口にする理想論に反発する不良校チームの面々、そして春一がひとり野球部となるに至ったのにもドラマがあり、急造チームが勝つためにはそれなりの独自作戦があり、その辺りがストーリィの興味どころ。
そして、できない、できないと言い訳する前に、何故やってみようとしないのか、というメッセージはやはり青春小説ならではのものです。

ひととおり青春スポーツ小説の要素は取り揃えられているのですが、もうひとつストーリィに乗り切れなかったのは、どこかストーリィに硬さ、少々の無理があったからでしょうか。

       

2.

「風が吹いたり、花が散ったり ★★    島清恋愛文学賞


風が吹いたり、花が散ったり

2017年06月
講談社刊

(1350円+税)



2018/04/27



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ある出来事から高校を中退し、実家も離れ、“和ダイニング・捲土重来”でバイトをしながらの一人暮らし、というのが主人公である高崎亮麿、19歳の現在の状況。
自分に自信を持てず、他人に対して引け目ばかり。このままではいけないと思いつつも、何か問題が起きるとつい逃げ出してしまう性分。
そんな亮麿が夜遅く、駅でぶつかり倒してしまった相手が、視覚障害者である
真田さち、21歳
そのさちから些か強引に「一緒に走って欲しい」と頼まれ、引き受けた亮麿、その時から新たな一歩を踏み出すことになります。

既にさちには、故障して陸上競技を断念した
廉二という伴走者がいる。フルマラソンの伴走を、廉二と亮麿がそれぞれ半分ずつ分担するという次第。
しかし、いきなり伴走者が務まる訳がない。亮麿は廉二にしごかれ、さちに励まされながら練習を重ねます。
伴走者を務めるためには、まず自分を鍛えなければならない、そしてさらに、さちを支えられるように自分が強くならなくてはならない、ということを知ります。
そこから初めて、止まっていた亮麿の時計が前に向かって動き出します。

さちへの淡い恋心、廉二への嫉妬心。一方、先輩格のバイトである
白根愛から突然突き付けられた好意への戸惑い。
それらを経て、弱いのは自分だけと思い込んでいた亮麿は、他の人間もそれぞれに弱いところ、他人への引け目、悩みを抱えていることに気づいていきます。

登場人物たちの顔ぶれ、皆、何と若いことか。殆どが20歳前後なのですから、人生といってもまだまだ出発点に過ぎません。
出会い、お互いに関わり合うことによって、新たな一歩を踏み出すに至る、それこそ青春&再生ストーリィに他なりません。
そこに恋愛要素が加わったところが、島清恋愛文学賞を受賞するに至った本作の魅力でしょう。

「悪あがきをしよう」、何と素敵な言葉じゃないですか!
それぞれ、一段階前へ進んだ登場人物たちに対して、心からエールを送ります。


プロローグ/白い杖/赤いロープ/黄色いアロハ/黒いマフラー/透明な風/エピローグ

        

3.

「空洞電車 ★★


空洞電車

2020年02月
双葉社

(1500円+税)



2020/05/31



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メジャーデビューを果たしたロックバンド“サイナス”
作詞作曲も担う中心人物であり、天才ボーカリストでもあった
ミツトが、自宅マンションのベランダから転落死。
追悼ライブを目前に控え、残されたバンドメンバーたちは、今後についてどう決断するのか。

全てをミツト一人が引っ張って来たバンドだけに、バンドを続けるにしろ解散するにしろ、決断は難しい。
ミツトとの出会いと関係を振り返りながら、バンドメンバーとしての自身の存在、そして今後にどういう青写真を描くのか、各自が覚悟を決めるまでのストーリィが一人一人について語られていきます。

中心人物の死、残されて追い詰められたような雰囲気が漂うメンバーたちに、「空洞電車」という如何にも空虚な題名、こちらまで意気消沈するような気持ちにさせられてしまう。
もう読むのを止めようか、そう思ってしまっても何ら不思議はありません。でも、見切ってしまうのは早過ぎます。
そこからが本ストーリィ真価の始まりなのですから。

改めて自分という人間について考え、迷い、逡巡しながら、今後の道を自分の意思で決める。
全くもって遅過ぎる青春期からの卒業のように思えますが、とても新鮮で素晴らしい。そこには卒業式を迎えた清々しさがあります。お薦め。

洞口海人:3歳上の兄。兄弟であり、バンド仲間であり、年長者であるからこそ思いは複雑、後悔も深い。
加藤 紬:恋人。それだけにショックは大きい。ミツト、決して優しい恋人ではなかった。
村井 匠:ベーシストをクビになりマネージャーに。自分は凡人と自覚。だからこそ行き場を失った思い。
副島まき:紬と高校吹奏楽部時代からの仲間。紬にただ付いてきただけ。良い機会だと、ミュージシャンを諦め印刷会社に就職した穣治から、3歳の息子=来人の育児専念を求められる。
武井慈夢:穣治・まきと大学のジャズ研究会仲間。まき(1学年下)に誘われバンドに参加。ミツトから託されたメッセージの扱いに迷う。

プロローグ:洞口光人(ボーカル)/1.洞口海人(ギター)/2.加藤紬(ベース)/3.村井匠(マネージャー)/4.副島まき(ドラム)/5.武井慈夢(キーボード)/エピローグ:あるいはあなたかもしれない誰か(ボーカル)

           

4.
「あめつちのうた Song of rain and ground ★★


あめつちのうた

2020年06月
講談社

(1600円+税)

2021年07月
講談社文庫



2020/07/14



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一言で語るなら、お仕事小説&青春再出発ストーリィ。

主人公は、甲子園グランドの整備等を請け負っている会社
「阪神園芸」に勤める雨宮大地
入社2年目となり、新しく入社してきた後輩に請われ、これまでの1年間について語り出す、というところから始まります。

その大地、運動神経はひどく鈍い。そのため、元高校野球児だった父親から無視され、父親の期待は対照的に野球センス抜群の弟=
傑(すぐる)に向かい、2人から逃れるように阪神園芸に就職、東京の実家を離れ大阪で寮生活、という次第。
何故阪神園芸に就職したかというと、高校時代は野球部のマネージャー、そのチームが甲子園出場を果たしたものの1回戦で敗退し、その時の出来事が動機となっているのですが、それは読めばわかります。

入社して怒られてばかりの大地ですが、本作は彼一人のストーリィではありません。
何かと大地に辛辣に当たる1年先輩、寮で隣室の
長谷は、元甲子園の優勝投手。右肘を故障して野球選手の道を断念し、この仕事に就いたという複雑な感情を隠しています。
また、大地の親友でエース投手だった
一志は、大阪の大学野球部に進学したものの、同性愛者であることを隠していることに葛藤を抱えています。
そしてもう一人、甲子園でビールの売り子をしている大学生の
真夏は、小学生の時に重い病気を患った過去を引きずりながら、ライブ活動を続けている。
その4人が絡み合い、お互いに気に掛け合い、励まし合い、本音を爆発させながら、各自がこれまで出来なかった一歩を勇気をもって踏み出すまでのストーリィ。
コンセプトは、
“雨降って地固まる”のようです。

何と言っても魅力は、背景となる甲子園、そのグランド整備の様子、一切合切。
こんなにも丹念に整備作業がなされているのかと思うと、甲子園での野球試合を見る目が変わりそうです。
野球ファンには、是非お薦めの、珍しいお仕事小説です。
※実在する会社が、そのまま実名で登場するのも珍しいこと。


プロローグ/はじめての春/はじめての夏/はじめての秋/はじめての冬/ふたたびの春

           

5.

「日向を掬う ★★★


日向を掬う

2021年04月
双葉社

(1600円+税)



2021/05/17



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主人公の大守良行は、40歳になる今も未だ親の脛を齧って暮らす売れない俳優、実家暮らしの独身。
その良行、突然訪ねてきた少女から
「私、あなたの娘です」と言われ、仰天します。
何故なら良行に覚えがあったから。15年前、元恋人の
都築街子から頼まれて精子提供し、その後女児が生まれたという報告を貰っていた。
少女の名前は
都築日向実(ひなみ)、14歳、中2生

そこから始まる、ずっと会うことのなかった父と実の娘、それぞれの生き方を問うストーリィ。
良行にとっては、母親や姉、中3生の甥を巻き込んでの大騒動になります。だらしなく生きてきた良行ですが、実の娘に対する責任を拒否しようとはしません。ただ、良行のこれまでがこれまでなので、何につけても失敗ばかり。
でも、日向実に向かい合う度、しっかりしろと日向実から突き付けられるように感じ・・・。良行、実は優しい男なのです。

一方、自身の誕生経緯を知った日向実は、自分を人工的に作り出された人間のように感じ、自分の存在意義は何処にあるのかと苦悩するようになります。

死んだ母親と2人だけの家族だったのが、父親だけでなく祖母、従兄、伯母と次々に登場してくるのですから、これまで味わったことのないゴタゴタも経験して当たり前。それこそ家族というものでしょう。

良行、日向実だけでなく、母親の
光枝、甥の惟吹(いぶき)、姉の友香や、女性弁護士の和泉、良行が所属する事務所のマネージャーである明里等々、登場人物が皆生き生きしていてすこぶる楽しい。
その中でも抜群に魅力的な存在は、やはり日向実です。

良行と日向実が周りの人間たちをどんどん巻き込んで騒ぎを大きくしていく処、そして自分自身を見つめ直していく展開が、何と言っても素晴らしい。
仰天させられる一幕を経てようやく大団円かと思いきや、最後に驚くべき真相が明らかにされてつい呆然としてしまうのもまた、本作の稀なる魅力です。

新しい家族が生まれる姿を描いた傑作! 是非、お薦めです。

      


  

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