荒馬 間
(あらば・かん)作品のページ


1942年兵庫県神戸市生、本名:古市東洋司。66年米国アラバマ州立史学科卒。79年3月まで朝日放送勤務。在局中は“必殺仕置人”などの脚本を執筆。85年「新・執行猶予考」にて第24回オール読物推理小説新人賞受賞。97年11月死去。


1.
わざくれ同心

2.おじゃれ女八丈島

   


   

1.

●「わざくれ同心」● ★★




1998年02月
新潮社刊
(1500+税)

 
1998/04/18

題名の“わざくれ”とは、「えーい、ままよ! どうとでもなれ、明日は知らぬ!」 といった居直りの心境を表す当時の俗語だそうです。
本作品の主人公・柿坂五郎左エ門は、まさにわざくれの生き方を心に決めたような同心。ストーリィは彼が関わる二つの事件が同時並行に進みます。

ひとつは長年の友人である佐土原藩の家臣・影友が巻き込まれた藩の窮地。読みながら、登場人物のみならず読む側まで危地に押し詰められるような圧迫感を覚え、作者の凄みを感じます。
もうひとつの事件は、美鈴という若い娘が店の主人を殺そうとしたもの。釈明もせず処刑をひたすら願う娘の背景にある真相は?
後者は切なくなるようなストーリィですが、胸がジーンとする結末までまったく展開の予想がつきません。帯にある北上次郎さんの「ラスト近くで不覚にも目頭が熱くなってきた」という感想は、この結末のことでしょう。
でももっと感動的なのは、実は作者によるあとがきの最後の文章でした。素晴らしい作品が出来上がって良かったですねという言葉を、今はすでに亡くなった荒馬さんに贈りたいと思います。

   

2.

●「おじゃれ女八丈島」● ★★★




1988年05月
河出書房新社
(1301円+税)

1998年2月
河出文庫化

 
1998/09/26

 
amazon.co.jp

凄い小説です!
底知れぬ恐ろしさを感じさせられる、と言うべきでしょうか。
隆慶一郎さんのようにスケールが大きいというのではありません。全くそれと異なる、深さがある作品です、まるで底無し沼のような。

遠島刑の八丈島を舞台にした時代小説。
珍しいなあ程度に、気軽に読み始めました。確かに前半はそういった風だったのです。
ところが、後半になると全く様相が変わってしまい、いつの間にか罠に落ち込んでしまったような思いにかられます。後は、ただただ圧倒されるままに、結末まで読み続けました。
しかも、主人公たちを完全に押しのけ、それまで僅かに名前が出ただけの人物が圧倒的な存在感を示します。まさに真の主人公はその人物であって、他の登場人物たちはただ手玉に取られていただけ、という印象です。
読み終わって暫く後、わが身を主要人物のいずれかに置き換えて想像してみたら、恐ろしいまでの閉塞感に襲われ、息苦しさに悶えそうになってしまいました。
作者が既に亡くなっていることが、惜しまれてなりません。

※「おじゃれ」とは、おいであれ、という呼びこみ言葉。江戸時代、旅人宿で、客引きをしたり、肉体を売ったりしていた女をおじゃれ女と呼んだ由。

   


 

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