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1.読書嫌いのための図書室案内 2.水野瀬高校放送部の四つの声 |
「読書嫌いのための図書室案内」 ★★ Library guide for nonreaders |
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自称活字アレルギーという高校2年の荒坂浩二、ここなら楽だろうと図書委員になったところ、司書の河合先生から本嫌いこそ適役と、図書新聞復活の役目を担わされます。 その荒坂のパートナーに選ばれたのが、大人しくて声の小さい同級生の女子=藤生蛍。 ところがこの蛍、本の話になると印象が一変、本のことならと夢中で語りだし止まらない、という本好き女子。 さて図書新聞、まずは読書感想文を掲載しようと依頼し始めた浩二でしたが、依頼した3人から逆に謎めいた条件を提示されてしまう。 同級生の八重樫、美術部の緑川先輩、生物の樋崎先生というのがそのターゲット3人。 浩二&蛍コンビを中心に、高校を舞台にしたミステリという趣向ですが、常に幾つもの名作小説が絡みます。 森鴎外「舞姫」、ヘルマン・ヘッセ「少年の日の思い出」、安部公房「赤い繭」、等々。 藤生蛍の熱い語りが少しずつ浩二に影響し、最後には本嫌いだった浩二に、本への関心を持たせるという成果に繋がっていくところが、本好きをベースにした本作のミソ、と感じます。 本好きとしては、多くの人が少しでも本に興味を持ってくれたらと思うので、本ストーリィは嬉しいところです。 序章.蘇る図書新聞/1.ルーズリーフのラブレター/2.放課後のキャンプファイヤー/3.生物室の赤い繭/終章.藤のささめき |
「水野瀬高校放送部の四つの声」 ★★★ Four voices of Mizunose High School Broadcasting Club |
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生徒はいずれかの委員会あるいは部に所属しなければならないというのが水野瀬高校の定め。 ある理由から野球部を辞めた3年生の巌泰司、ここなら部員は自分一人と思い込み放送部(同好会)を起ち上げた処、何とヤル気満々の1年生=赤羽涼音と白瀬達彦が入部してきてしまい、部活動をきちんとせざるを得なくなります。 さらに入部届を出してきたのは、朝の登校時、生徒を馬に見立てての実況中継を一人ぶつぶつ口にしている2年生の南条梓。しかし、こちらはまるでヤル気がなくサボってばかり。 一人一人、個性も抱えた問題点も全く異なる4人を描く青春群像劇。 見た目の行動と違い、4人それぞれが実は重たい問題を抱えていることが判ってきます。 明るく常に積極的な「スズ」こと赤羽にしても同様。 そうした各人それぞれの物語も読み応えあるのですが、そこにおいて他の3人が見事に絡み合う処が本作の魅力です。 とくに巌、3年生で部長という立場もありますが、元体育系部らしく物に動じないところが、各篇で良い重しになっています。 それぞれ全く違う問題であるように思えたものが、実は共通して人から人へメッセージを伝えることの大事さを描いたものであることが判ってきます。それも絵文字ではなく言葉で、文章より口による言葉で。 だから本ストーリィの舞台は“放送部”なのです。 どの部員のストーリィが面白いかは個人の好み次第でしょうけれど、私としては南条梓が主人公となる「晴天の競馬場」。 何と言っても、一つの人物像において変化の度合いが一番大きいところ。そして、章の最後はとても爽快。 青春小説、群像劇の傑作。青春小説好きの方なら、本書を読み逃したらとても勿体ない。 是非お薦め! 1.四番の背中/2.晴天の競馬実況/3.舞台袖から遠くの君へ/4.消えない言葉 |