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1.辞めない理由 2.ブックストア・ウォーズ(文庫改題:書店ガール) 3.書店ガール2−最強のふたり− 5.凛として弓を引く |
●「辞めない理由」● ★ |
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2009年10月 2014年10月
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出版社で女性雑誌の副編集長を務めているワーキング・マザー、七瀬和美が主人公。 小学校1年生の娘を持ちながら、ただでさえ忙しい出版社勤務を続けています。副編集長を務めているというのも、和美が能力の高い編集者であるということの証し。 それなのに、突然和美より能力の劣る年下の同僚が編集長に昇格し、しかもチーム内でことごとく和美を仕事から外すばかりか、和美のメンツを潰すばかりの仕打ち。 一体、何が悪かったというのだ、上司におべっか遣いをしなかったからなのか、だからといって何故これ程までの仕打ちを受けなければならないのか。所詮、女性は昇進ルートから仲間外れされる運命なのか。 そんな折も折、娘の絵里についても難題が振りかかってくる。 本書はワーキング・マザー=和美のサバイバル・ストーリィ。作者である碧野圭さんの実体験に基づく小説作品とのことです。 和美に対する余りに露骨な仕打ちには呆れ返る程ですが、本当にこんなこと今でもあるのでしょうか。でも、古い体質の会社だったらまだあるのかも。 出版社を舞台にした仕事小説、一旦貶められたものの鮮やかに復活を決めてみせる、という点で面白く読める一冊です。 |
「ブックストア・ウォーズ」 ★★ |
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2012年03月
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店長に昇格したと思ったら半年余り先に閉店が決まっていたペガサス書房K店。 女のくせにと差別視する男どもに負けてたまるかと、そりの合わなかったベテラン書店員と“お嬢ちゃん”店員の2人が女のプライドと意地をかけて立ち上がった書店員奮闘記、というワーキングガール小説。 新宿からJRで20分ほどの駅前、古い雑居ビルの3〜5階にある老舗書店が舞台。ビルは古いながらペガサス書店の1号店という歴史をもち、高級住宅地だけに客筋もいい。 同じ書店が舞台といっても大崎梢さんの描く“成風堂書店”とは似ても似つかぬ職場状況。契約社員、バイトの中で反目し合う連中は多いし、売場のレイアウトにしても保守的な理子と、BL(=ボーイズラブ)漫画を積極的に売っていこうとする直情的な亜紀とは対立してばかりで、職場の雰囲気もやや暗い。 男に理解されないどころか見下げられ、働く女性はツライ、今に見てろ、という観のあるお仕事小説。後半は読み応え十分です。 |
「書店ガール2 Book Store Girl2−最強のふたり−」 ★★ | |
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「ブックストア・ウォーズ」が文庫化時に「書店ガール」と題名を変えてシリーズ化、その第2弾。 ペガサス書房吉祥寺店の閉店後、新しく吉祥寺の商業ビル内にオープンした福岡本店の大型書店チェーン=新興堂書店にスカウトされ、西岡理子42歳はその吉祥寺店の店長に。 新興堂書店生え抜きの副店長=田代が理子を支えます。 一方、理子と一緒に同店へ転職した小幡亜紀29歳は念願の文芸書担当となり、“本屋大賞”のプレゼンターも務めて充実した書店員生活を送っていましたが、懐妊が判明して編集者である夫の伸光と仕事を続けるかどうかで揉めてしまいます。 今や“吉祥寺の女傑”とか“伝説”とか言われているらしい理子の颯爽とした女性店長ぶりとその活躍が楽しめる一冊ですが、それだけでなく、冒頭では“本屋大賞”が取り上げられていたり、東京の谷根千から始まり全国へ広がった“一箱古本市”のこと等々、書店業界や出版業界の現状も描き出されているところが貴重です。 さらに本書の終盤では、理子が吉祥寺周辺の書店と連携して開催するブックフェアの様子が、本好きとしてはワクワクするような楽しさです。 少しずつ、この後の本シリーズ各巻を読んでいこうと思っています。 |
「駒子さんは出世なんてしたくなかった」 ★★ | |
2021年11月
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主人公である水上(みなかみ)駒子は、42歳。出版社で庶務を扱う管理課の課長職。家族は、元カメラマンで現在主夫の達彦、高校生の息子である櫂という3人家族。 ある日、同期でもう一人の女性課長である岡村梓と2人呼び出され、突然にして次長への昇進を言い渡されます。 しかも、新規事業部を立ち上げ、2人とも同部へ異動。2人の内どちらか一方、成果を上げた方を部長に昇進させ、もう一人はその下で次長のまま、という内容。 とくに出世意欲もなく、余り苦労せずに働ければいい、現在の課長職も前任者が急病で離職したための偶然にしか過ぎないと考えていた駒子さん、戸惑うばかり。その一方、独身である岡村梓はやる気満々の様子。 何故そんな人事を突然会社が行ったかという疑問、それは後半で明らかになるのですが、何とまぁ。 本作は、独身・家族持ちであるかを問わず、女性が会社で働くうえでどんな苦労があるのか、それに対して企業の対応は如何なるものか、を問うた作品といって良いでしょう。 正直なところ、今更古いなぁ、まだこんなことをやっているのかと感じたのですが、世間一般的には今なお、こうした企業の方が多いというのが現実なのでしょうか。 ただ、女性が働きやすい場所に変革していくためには、女性が上層部に辿りつくことが不可欠というのは同感できること。 ただ、その過程では、女性を優先的に昇進させていくという傾向が生じるのも否めない事実であって、そうした必要性を社員全員に納得させていくことも必要なのだろうと思います。 会社における駒子さんだけでなく、主夫だった夫が仕事を再開しだしたり、息子が不登校になったりと、家庭内でも問題続出となるストーリィ。 好感がもてるキャラクターの駒子さん故に、好意的かつ面白く、本書を楽しむことが出来ました。 |
「凛として弓を引く」 ★★ | |
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弓道を題材にした、碧野さんの青春エンタテインメント、新シリーズの開幕です。 弓道というとスポーツと武道の両要素を備えているという印象ですが、これまで目立たなかった所為か余り小説の題材にはなっていないように感じます。 私としては、まはら三桃さんの「たまごを持つように」以来となる2冊目。 主人公は、高一になる矢口楓。春休みに名古屋から東京に越してきて早々立ち寄った神社で、弓道の練習風景を目にします。 その時であった少年から体験教室のチラシを貰い、試しに参加。 それが切っ掛けとなり、ちょうど高校の部活動に早々と挫折してしまったことも重なって、正式に<弓道会>に入会します。 高校とは違って弓道会は参加者の年代も幅広く、指導役の年配女性からは礼儀から躾けられる、と戸惑うことばかり。 でも、一つ一つに何故と疑問をぶつけ、その意味を知ると素直に従うという楓の歩みが好ましい。 また思わぬ成り行きから、イケメン少年と美少女の兄妹の家庭内トラブルに巻き込まれたり、年配者も大勢いる中で自分の意見を述べることになったりと、人見知りで事勿れ主義だった楓の成長ぶりが味わえるところが楽しい。 登場人物も多彩で飽きません。特に私としては、国枝さんが魅力的です。 今後の展開が楽しみです。 |
「凛として弓を引く−青雲篇−」 ★★ | |
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シリーズ第2弾。 弓道会で一学年下の高坂賢人が、矢口楓や真田善美と同じ都立武蔵野西高等学校(ムサニ)に入学してきたと思ったら、弓道部を起ち上げようと声を掛けてきます。 学校でも弓道の練習をできるのは歓迎と賛成した処、何と楓は部長を押し付けられてしまいます。 とりあえず、同級生で頭脳明晰で弁も立つが運動は苦手という薄井道隆、賢人の塾トモ=大貫一樹(カズ)を入れて、同好会発足に必要な五人を確保しますが、学校内で練習場所をどうするのかといった問題を初め、賢人と薄井がやたら対立したり、おまけに10年前弓道部が廃部となった事情調べを生徒会から課題とされたり、問題ばかり。 (※賢人、結構、自分勝手なところありますね。) 自分は部長として適役ではないと嘆きつつも、とりあえず前に進まなくてはいけないと暗中模索しながらの日々が描かれていきます。 苦労や未経験者への指導も自身の成長の糧、とは言えますが、望んでしたい苦労ではないですよねぇ〜。 ただ、途中から元気いっぱいだがどこか変っているという一年女子の山田カンナが入部してくると、何はともあれ活気が出て来たようです。 楓の奮闘+成長という、弓道女子の青春成長ストーリー。 善美は相変わらずのマイペースですが、メンバー6人+顧問となった田野倉教師とのやりとりは中々楽しい。 そして、10年前の弓道部廃部の謎は、ちょっとしたミステリですが、その真相が明らかになる顛末には、あっと言わせられる驚きがあるのも楽しい。 なお、善美の兄で志望大学の一年生となった乙矢、弓道会のベテラン=国枝や白井もちゃんと登場してきます。 次巻に繋がる面白さが十分味わえます、お楽しみに。 |
「レイアウトは期日までに」 ★★ | |
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軽〜い作品ですが、とにかく楽しい。 主役二人の関係もそうですし、ストーリーそのものも楽しい。 うまく行き過ぎ、という批判も当然あるでしょう。でもこれだけ楽しければ、そんなことはどうだっていいじゃない、と言いたくなる作品。 主人公の赤池めぐみ(27歳)、5年間契約社員として働いてきた中堅出版社のデザイン室を突然に解雇されてしまう。さらに、ペット禁止なのにいつの間にか犬を飼い始めたと咎められ、アパートも追い出されてしまいます。 そんな時に知ったのが、同い年ながら天才と評価され、憧れの装丁家であった桐生青による人募集。 応募したところ即採用されたのですが、まさか電話番と猫の世話をする人を求めていただけとは・・・・。 片や独立したばかりの天才肌、職人タイプの青と、片や凡人ではあるが社内デザイン室での経験豊富、調整や事務能力にも長けているめぐみという、お互いに足りない処を見事に補い合う二人のシスターフッド関係が楽しい。 本作、シリーズ化されるような雰囲気があります。楽しみです。 |
「凛として弓を引く−初陣篇−」 ★★ | |
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弓道の魅力、楽しさがますます感じられる、シリーズ第3弾。 メンバーが集まり、顧問も決まり、今は同好会とはいえ態勢が整った武蔵野西高校(ムサニ)の弓道部、いよいよ発進です。 つまりは、地区の弓道大会に出場、他の高校弓道部と競う、ということ。 しかし、最初に出場した大会では、予選会で惨敗。 もっと練習しなくちゃ、という賢人の提案で田野倉先生から立ち会わなくても練習してよいとの許可を得、ますます練習に熱が入ります。 善美は順調、なぜって体勢が崩れないから。 一方、楓は苦闘続き。しかし、愛称がミッチーと決まった薄井の指導にスマホ撮影を利用した際、自分の姿勢も撮影して確認してみると、自分の欠点がよく分かります。 自宅でも、サッカー少年の弟=大翔(はると)や、太極拳をしている母親から中心軸について助言を受け、そのおかげで楓も、指導者の白井が「ほぉ」と感心する程に姿勢が改善。 その結果を受けて、ムサニ弓道部は躍進できるのか? 次巻へと、さらに楽しみは膨らみます。 |
「凛として弓を引く−奮迅篇−」 ★★ | |
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シリーズ第4弾。 矢口楓や真田善美らもついに3年生。今まで少人数の仲の良い仲間たちだけ、仲間たちと相談しながらやってきた弓道同好会の活動も、正式に部に昇格して新たな試練の時を迎えます。 まずは弓道部の顧問。進路指導で忙しくなった田野倉先生に代わり、大学弓道部時代に全国大会にも出場した経験があるという新たに赴任してきた青田修二先生が新顧問となります。 それにより、自由放任だった田野倉先生と異なり、全国大会を目指そうという目標の下に練習量も指示も増えていきます。 また、関東大会予選会で女子メンバー(善美・カンナ・楓)が思わぬ活躍をしたことから、新一年生の入部希望者が多数となり、楓たちには新入部員の世話をする、という役割が生じます。 楓たち従来のメンバーは、青田先生の新しいやり方と、遠慮せずいろいろ要求してくる一年生との間で板挟み、という感もあります。 それでも、きちんと考えて前に進もうとするあたり、成長の証しと言えるでしょう。 ただ、楓たちも3年生となれば受験が目の前に。 楓たちの成長ぶりを描いてきた本シリーズ、今後はどういう展開になるのか。 新たに気になる人物も登場し、まだまだ楽しみです。 |