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1.パラ・スター<Side 百花> 2.パラ・スター<Side 宝良> 3.金環日蝕 4.カラフル 5.カフネ |
「パラ・スター<Side 百花(ももか)>」 ★★ | |
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「たーちゃんは最強の車いすテニス選手になって。わたしはたーちゃんのために最高の車いすを作るから」 高校2年時、親友の君島宝良が車にはねられて脊椎損傷、下半身不随となり宝良は車いすユーザーに。 立場は違えど、その事故によってそれぞれ苦境に立たされた2人を救ったのは<車いすテニス>との出会い。 元々有望なテニス選手だった宝良は、再び闘う場を見つけ車いすテニスの世界へ。一方、本書主人公である山路百花は、ひと目見た時から競技用車いすに魅せられ、メーカーである藤沢製作所に入社。 本巻は、山路百花の側、「その人を自由にする車いす」となる競技用車いすの製作をめざし、ひたすらに情熱を燃やす若い女性エンジニアの姿を描く青春&成長ストーリィ。 百花と宝良、対照的な性格の親友関係にも惹かれますが、百花とその指導係となった小田切夏樹のやりとりは有川ひろ「図書館戦争」の笠原郁と堂上篤のコンビを彷彿させられて楽しい。 でも何よりも興奮させられるのは、競技用車いす製作に向けた熱い想い、そして車いすテニス試合のデッドヒート場面。 確かに障害を背負い、車いすユーザーとなったことによるハンデを抱えたのは事実ですが、だからといって自分の人生を選び取る自由まで奪い取られたわけではない、と勇気づける熱いメッセージを受け取った思いがします。 |
「パラ・スター<Side 宝良(たから)>」 ★★☆ | |
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物語の後半。「<Side 百花>」から1年後が描かれます。 本巻は山路百花の親友、車いすテニス選手である君島宝良を主人公にしたスポーツ・青春ストーリィ。 新鋭の車いすテニス選手として注目を集めた宝良でしたが、このところ壁に突き当たったかのように不調、芳しい成績が残せない状況。 そうした中、ジュニア時代からのコーチだった雪代が闘病することになり、コーチの変更。そして新コーチとなった志摩の勧めでテニス競技用車いすの新調を検討することとなり、藤沢製作所を訪ねることになります。 車いす選手だからといって、スポーツ競技小説によくある躍進・挫折・より高みを目指しての再挑戦、というパターンは変わりません。 勇気を出してコーチおよび車いすの変更を選んだ宝良、果たして再び躍進することができるのか。 また、前作の最後に登場した小学生の女の子=佐山みちるも再登場、車いすユーザーとなった少女の胸の内も語られます。 迫真の試合描写が本巻の魅力。とくに終盤、女子車いすテニス選手の世界トッププレイヤーである七條玲との激闘は圧巻!と言うに尽きます。 読了して感じたのは、宝良の闘いは単に試合に勝つ、ということではない、ということ。 試合で闘うと同時に、障がい者=車いすユーザーになったからといって人であることに何ら変わりはないということ、そしてそのことを広く世の中に訴える闘い、なのでしょう。 その意味で、七條玲や最上涼子ら同じ車いすテニス選手らは、ライバルであると同時にその同志なのでしょう。 読者の眼前に新しい世界を広げてくれる青春小説、2巻合わせてお薦めです。 |
「金環日蝕」 ★★ | |
2025年03月
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大学2年生の森川春風(はるか)は、近所に住む老女がひったくり被害に遭うところを目撃し、とっさに犯人を追いかけます。 偶々そこに居合わせた高校2年生の北原錬も、一緒に犯人を追いかけてくれますが、惜しいところで取り逃がしてしまう。 しかし、犯人が落としていった物は、春風の大学祭の折に販売されたもの。 錬に押し切られた春風は、文化祭で休校という2日間限定で錬と一緒に犯人捜しに動き、相手を特定するのですが・・・。 一方、親の経済的問題から苦境に立つ学生たちの苦しみ、犯罪に巻き込まれてしまう窮状も描かれます。 あえて言うならば、学生たちによる、学生たちが巻き込まれた犯罪、あるいは行おうとしている犯罪の探索ストーリィ。 普通の女子大生に過ぎない春風が、何故事件に固執するのか。 その一方、一部では家族ドラマといった様相もあります。 母子家庭である錬とその双子の弟=陽・妹=翠(共に中2)と母親=由紀乃の北原家はやたら賑やかです。 また、他にも志水理緒や鐘下実等々、様々な学生たちが登場し、群像劇さながらの面白さも味わえます。 単なるひったくり事件であった筈の先に、幾つもの事件あるいは犯罪が登場し、目まぐるしい。 しかし、春風の、そして錬の思い切った行動が、次々と事件をあぶり出していくという展開は十分面白く、堪能できます。 なお、カガヤという本ストーリィの鍵を握るかのような人物の正体は何なのか? 中盤の最後、「まるでオセロのようだ」と呟く春風の言葉が印象的。本ストーリィの展開をまさに象徴するようなひと言です。 ただ、複雑にし過ぎて、結局本作は何を伝えようとしたのかという点が判り難くなってしまったと感じます。 ただミステリというだけでは無かった筈で、そこが少々残念。 ※それにしても春風と錬というコンビ。また別の事件に遭遇して活躍しそうな処があります。期待したいところです。 序章.発端/1.探偵/2.家族/3.発覚/4.反転/5.対決/終章.勇気 |
「カラフル」 ★★★ | |
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主人公の荒谷伊澄は、中学時代陸上に全力で取り組んでいたがある事故で怪我したことで、高校三年間は「本気にならないこと」を目標にしようと決めている。 そんな伊澄が高校入学式の朝、駅で出会ったのが、車椅子に乗った少女。 弁が立ち、伊澄にズケズケと苦情を言い立てる彼女を「ヤな女だな」と感じた伊澄ですが、その渡辺六花が伊澄と同じ高校新入生にして、しかも同級生とは。 車椅子ユーザーとなっても自分を貫こうとする六花と、挫折して目標を見失った伊澄という2人の男女を軸とした、挫折&再生、それに加えて恋を描く、胸熱くなる高校青春ストーリー。 普通の生徒たちの間に、一人車椅子ユーザーが入り込む苦労が、六花の言葉をもって描かれます。 一方、同級生たちの間では、六花にどう付き合えばよいのかという戸惑いがあり、また、敬遠するというより何かあった時に対応できるか自信がない、分からないといった恐れがあることも、描かれていきます。 そんなお互いの心の内を、さらけ出す、話し合う、というステップに至れるところが、高校生らしい良さかもしれません。 お互いに話し合うことで道が開ける、それこそ本来あるべき姿でしょう。 高校生たちがそう行動する処が頼もしい、これから先の社会への期待が膨らむ思いです。 個性的な高校生たち、ごくふつうの高校生たちと、いろいろな高校生たちが登場して本ストーリーが進んでいく処も魅力ですが、何と言っても主たる魅力は、伊澄と六花との溌溂としたやりとりにあります。 愉快で面白く、楽しい、そして胸を揺さぶられます。こんな遠慮ないやりとりをできる友人がいるということ自体、幸せなことではないかと思います。 車椅子ユーザーの思い・事情を学ぶことができ、そのうえで面白く、爽快な気分を味わえる青春小説の佳作。 是非お薦め! |
「カフネ Cafune」 ★★☆ 本屋大賞 | |
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主人公は野宮薫子(41歳)、バツイチとなったばかり。東京法務局八王子支局に勤める国家公務員。 可愛がっていた弟の春彦が、29歳の誕生日に自宅で死んでいるのが発見されショック。原因は不明のまま。 その春彦、何故か遺言書を残しており、遺産の一部を元恋人である小野寺せつな(29歳)に遺贈。遺言執行人に指名されていた薫子は、その手続のためせつなに会いますが、彼女は拒絶。 せつな、<カフネ>という家事代行サービス会社で働く調理人。 無料チケットでのそのボランティア活動、春彦も生前、手伝っていたのだという。 その春彦に掃除を仕込んだ薫子のかたづけ能力を見込み、せつなは薫子にボランティア活動を手伝って欲しいと頼んできます。 亡き春彦の思い、せつなという女性のことを知るため、土曜の休日、薫子はせつなとペアで家事代行のボランティア活動を始めるのですが・・・。 無料の家事代行サービスを利用しようとする家庭は、それぞれ、それなりの理由があるもの。 薫子は、そうした家庭の窮状、そして凄腕調理人というせつなの姿を目の当たりにします。 そして、薫子は昼食、家事代行終了後の食事をせつなと共にするようになり、少しずつ二人の関係は近づいていきます。 何と言っても、二人が訪れる様々な家庭の姿に胸を打たれます。専業主婦ならいざ知らず、いや専業主婦だって、まして働きながら家事も負担している人たちなら、遠慮せず家事代行サービスを利用すれば良いと思います。自分自身が倒れてしまっては、何にもならないのですから。 そして、そうした窮状は、依頼人たちだけでなく、<カフネ>の代表である常盤斗季子、せつなも経験してきたことであると、薫子は知ることとなります。 そしてまた、春彦や自分が抱えてきた問題も。 人に手を差し伸べる、その行為に胸を打たれます。自分たちは孤独ではない、と知ることがどれだけ人を救うものであるか。 最後、薫子がせつなに差し出した手は、驚愕するものでしたが、そんなこともあって良いのだと得心させられます。 お薦め。 ※題名の「カフネ」、ポルトガル語で、愛する人の髪にそっと指を通す仕種、とのことです。 |