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Peter Terrin  1968年ベルギーの西フランダース州ティールト生。ケント大学出身。2001年「Kras(かき傷)」にて作家デビュー、09年「警備員」が16ヶ国語に翻訳されEU文学賞を受賞。「身内のよんどころない事情により」にてオランダ語圏の重要な文学賞であるAKO文学賞を受賞。

 


                               

「身内のよんどころない事情により」 ★★☆
 
原題:"Post Mortem"          訳:長山さき


身内のよんどころない事情により

2012年発表

2021年07月
新潮社

(2050円+税)



2021/08/17



amazon.co.jp

三部構成からなる、ちょっと複雑な構造を持つ作品。

第一部の主人公は
エミール・ステーフマンという40歳の作家で、三人称で語られます。
気の進まない作家の集まりに欠席する言い訳として、「身内のよんどころない事情により」という文句を思いつきます。さらにそれが契機となって、自分をモデルにした
“T”という作家を主人公にした物語を書くことを思いつく。
ところが、その「よんどころない事情」が事実化し、
3歳の娘=レネイが脳梗塞を起こして緊急入院するという事態に。

第二部はステーフマンの第一人称で描かれ、意識不明が続くレニイを心配する家族の様子、レニイの闘病状況が、ステーフマンの手で記録される、という内容。

そして第三部はその十年後、伝記作家である
「ぼく」が、ステーフマンの伝記を書こうと、金の帯賞を受賞した小説「T」とステーフマンから届いたビデオを確認する、という内容。

レニイの闘病はステーフマンにとって事実でもあり、小説「T」の中で描かれることでもあるという等々、ステーフマン自身の出来事と作中人物であるTの出来事が輻輳します。
さらに、作者テリンの娘レニイの身に実際に起きたことというのですから、まこと複雑です。

最後、本作品の意味は、ステーフマン、Tという架空の人物の物語を踏み台にして、決して諦めようとせずリハビリに取り組んだ娘レニイを讃えるための作品だったのか、と思い当たった次第です。
振り返ると、複雑ではありますが、本作のこの構成は絶妙で読了後の充足感はたっぷり。お薦めです。
※なお、第一部は読み飛ばしても支障ないと思います。

第一部/第二部/第三部

    



新潮クレスト・ブックス

      

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