ドメニコ・スタルノーネ作品のページ


Domenico Starnone  1943年イタリア、ナポリ生。作家・脚本家。大学卒業後、ローマの高校で教鞭をとりながら、「イル・マニフェスト」紙の文化面に携わる。87年「教壇から」にて作家デビュー。教育現場を舞台にした作品を次々に発表し、映画やドラマの脚本家としても活躍。2001年自伝的小説「ジェミニ通り」にてストレーガ賞を受賞。14年「靴ひも」が、優れたイタリアの小説に贈られる米国のブリッジ賞に選ばれる。

 


                                   

「靴ひも」 ★★☆
 
原題:"Lacci"     訳:関口英子


靴ひも

2014年発表

2019年11月
新潮社

(1900円+税)



2019/12/27



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本作は「もしも忘れているのなら、思い出させてあげましょう。私はあなたの妻です」という一文から始まります。
この一文が見事。ぐいっと読み手の心を惹きつけて離さないといった力を感じます。トルストイ「アンナ・カレーニナ」の冒頭文と同じくらい、忘れ難い冒頭文になりそうです。

本作は
「第一の書」「第二の書」「第三の書」という3部構成。
上記文で始まる
「第一の書」は、恋人を作って家に戻らず、妻と2人の子供を放り出している夫に対して、家に帰るよう頼み、その無責任なしようを批判し、家族の断絶を告げる9通の手紙から成っています。

「第二の書」は、短いヴァカンスに出掛けようとしている老夫婦の姿を、夫の側から語っています。
この老夫婦、「第一の書」で揉めていたあの2人と解ります。
あぁ元の鞘に収まったんだという安堵感を覚えます。一方、やたら老夫が老妻から文句を浴びせられている様子は、あんなことがあったんだからやむを得ないよな、という納得感あり。
この2人がヴァカンスから戻ってくると、家の中が滅茶苦茶に破壊され、物が酷く散乱しており、飼い猫はいなくなっていた。一体何があったのか?と思わせられます。
片づけの最中、この夫が40年ぶりに妻からの手紙の束を見つけ、当時の状況が夫の側から語られます。

そして
「第三の書」は、当時10歳前後だった2人の子供、サンドロアンナの様子が描かれます。
この「第三の書」が凄い。「第一の書」「第二の書」で植え付けられていた思いを一気に壊滅させてしまうくらいの衝撃度を持っています。
夫婦関係はそれなりに修復されたのかもしれませんが、子供との関係が修復されることはなかった、ということでしょうか。

「第一の書」で妻はかなり理性的な人物という印象でしたが、そうではなかったのか・・・。この2人に比較すると、若い恋人
リディアの方がずっと望ましい人物という印象です。
また、「第二の書」で夫が簡単に騙され金を巻き上げられている様子が可笑しい。家の中の破壊と何か関係があるのか?というミステリ要素にもわくわくさせられます。

本作内容は、この夫婦だけに起きた特別なことではなく、どんな家族にも共通する問題なのではないかと思います。
ふと自分の家族について振り返ってしまう・・・そんな一冊。

第一の書/第二の書/第三の書

     



新潮クレスト・ブックス

      

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