ジェイ・ルービン作品のページ


Jay Rubin  1941年米国ワシントンD.C.生、ハーバード大学名誉教授、翻訳家。シカゴ大学で博士課程終了後、ワシントン大学教授、ハーバード大学教授を歴任。芥川龍之介、夏目漱石など日本を代表する作品の翻訳多数。特に村上春樹作品の翻訳家として世界的に知られる。

 


                

「日々の光」 ★★★
 
原題:"The Sun Gods"    訳:柴田元幸・平塚隼介


日々の光

2015年発表

2015年07月
新潮社刊

(2900円+税)

 


2015/08/24

 


amazon.co.jp

太平洋戦争勃発直前の米国シアトル、開戦後の日系人収容所、そして戦後の日米と、時と舞台を切り替えつつ、戦争のために引き裂かれた日本人“母”と米国人“子”との深い絆を描いた長編ストーリィ。

主人公は
ビル・モートンという、牧師を目指す米国人青年。しかし、彼には幼い頃に何か秘密があるらしく、それがきっかけとなり恋人との関係もギクシャクしてしまいます。
ビルが幼い頃、カンザスで一緒に暮らしていた叔母さん=「ミツ」とはいったい誰だったのか。それを聞き出そうとすると、父親は狂ったように怒り出すばかり。
太平洋戦争開戦前夜の米国シアトルでの日本人社会の繁栄、戦争勃発を境とした生じた米国民の日系人への敵意、アイダホ州ミドニカの日系人収容所、戦中〜戦後の日本という史実を背景に、不思議な縁で結ばれた
光子とビルという義理の母子の、出会いと別れ、そして再会までを描いていきます。

まさしく本書は、戦争物語。戦争は数多くの悲劇をもたらしましたが、光子とビルの関係もその一つ。日系人収容所における光子とビルの強く結びついた母子関係には胸熱くなり、そして運命によって2人が引き裂かれる時のビルの泣き叫ぶ様子には胸が痛くなる思いです。
後半は、二世部隊
442連隊の帰還兵であるフランク佐野との出会いから過去を知ったビルが、母=光子を訪ねて日本へと渡るという展開。

母を訪ねて○○里と言うべき本ストーリィだけでも十分読まされてしまうのですが、ストーリィの根幹に、当時の米国民が日本人および日系人に対して行った仕打ちに対する作者の強い怒り、深い贖罪の念が感じ取れます。
即ち、日系人強制収容所の政策、民間人に対する無差別爆撃、原爆投下といった所業について。
ビルの父親である
トマス・モートンは牧師ですが、当時の米国人を象徴する人物像と言えます。それに対して息子のビルは、人と人とが結びつき合う大切さを知っている、トマスと対照的な人物像と言って良い。2人の父子関係が当初から破綻しているのもむべなるかなでしょう。
2人の関係を見るにつけ、信仰があるから愛があるのではない、愛があってこそ信仰もありうるのだ、と言いたくなります。

苦難の歴史を歩んだ母子の物語にして、怒りと贖罪の念を込めて当時の史実を描き出した作品。日本人ではなく米国人が本作品を書き著した処に大きな意味があると感じます。
なお、本作品の元バージョンは1987年に出来上がっていたとのこと。レーガン大統領が強制収容された日系米国人に対して謝罪し、補償金の支払いを明言したのは1988年ですから、どれだけ作者の考え方が進んでいたのかと驚く思いです。
戦後70年という機会に本作品を読めたことを幸せに感じます。
是非、お薦め!


プロローグ:1953年/1.1959年/2.1939年/3.1959年/4.1941年/5.1959年/6.1963年

          


      

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