ジュール・ルナール作品のページ


Jules Renard  1864年フランス生。少年期母に愛されない暗い日々を送る。フィガロ紙の記者を経て文筆業に専念。1907年アカデミー・ゴンクール会員に選ばれる。

  


        

●「にんじん」● ★☆
原題:“Poil de Carotte”

 

1962年7月
角川文庫刊

第70刷
1995年5月
(460円+税)

 

2000/03/07

昔から名前だけは知っていましたが、読んでこんなに楽しくない作品とは、思いもよりませんでした。
一貫としたストーリィというより、エピソードの数々を並び立てた、という感じで構成されている作品です。その意味でも、異色と言って良いのではないかと思います。
主人公は、赤毛でそばかすだらけであることから、母親から“にんじん”と呼ばれる少年。
まず、にんじんが母親から扱われている様子が尋常ではありません。夜寝ているうちに粗相をしたからといって、その溜まりをスープに入れて飲ませる、兄・姉がそれを横で見ていて嘲りの笑いを挙げる、にんじん自身も「そんなことだと思っていたよ」と言う。ショックを禁じ得ません。その他に何度も、末っ子のにんじんばかりが、母親であるルピック夫人から冷たい扱いを受けている、と感じさせられます。

普通の小説であれば、にんじんはいたいけな少年ということになるのでしょうが、本作品は決してそうではありません。冷たくあしらわれながらも何とか母親の気をひこうとする少年であり、一方でとても残酷なところのある少年です。モグラや猫を残酷なやり方で殺し、年老いた女中、寄宿学校の教師を卑劣なやり方で勤めから追い出すような真似をします。
母親から愛情を受けない育ち方をすれば、そうなっても仕方ないと思いますが、それを露骨に過ぎると、戸惑わざるを得ません。
ただ、ルピック夫人は本当に冷酷な母親だったのでしょうか。ルピック家自体が、父親、母親、子供たちと、非常に鬱屈した家庭ではなかったかと思えます。その中でも、とくににんじんと母親は、極め付きに折り合いの悪い関係だったのではないかと思われます。

 


 

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