リチャード・プライス作品のページ


Richard Price  1949米国ニューヨーク生。1974年「ワンダラーズ」にて作家デビュー。映画の脚本家としても活躍。

 


   

●「聖者は口を閉ざす」● 
 
原題:"SAMARITAN"           訳:白石朗

  

 
2003年発表

2008年03月
文芸春秋刊

(3500円+税)

 

2008/04/19

 

amazon.co.jp

TVドラマの脚本家として成功したレイは、その職を捨て、自分が生まれ育った団地に戻り、自分の卒業した学校で創作講座の講師として勤め始めます。
ところがその1ヵ月後、何者かによってレイは頭部にひどい殴打を受け、瀕死の重傷を負って病院に担ぎ込まれる。
幼馴染で今や女性刑事となっていたネリーズは、再会したレイに犯人の名を語らせようとするが、彼は応じようとしない。いったいそれは何故なのか。
レイを主人公とし、レイが勤め始めた1月から始まるストーリィと、ネリーズを主人公として事件の起きた2月から始まる捜査のストーリィが交互に語られていきつつ真相に迫る、という構成の重厚な長篇小説。

題名からして感動的な人間ドラマを予想したのですが、サスペンス小説ですし、描かれる舞台は相当に悲惨な状況、というべき社会の底辺という暮し。
本書の主題は、ミステリとしての真相究明にはなく、苛酷な状況の中で成長するしかない子供たちの痛ましい現実を描くことにあるようです。
父親という自覚もなく酔っ払って乱暴を振るうか、麻薬中毒、あるいは刑務所に出たり入ったりの亭主、まともな生活を送りたいと思っても食べていくことが精一杯の生活。そんな環境の中で過ごす子供たちを真っ当に育てあげられる術もなく、結局は親と同じような運命を繰り返すだけ、という状況。
そんな生まれ故郷に戻ってレイは何をしようとしていたのか、そしてそれは何故なのか。

いかにも米国社会の底辺らしい犯罪だらけの、子供たちにとっては悲惨としか言いようのない現実が、これでもかというぐらい連綿と描かれていきます。
しかし、そのためにこんなミステリ風のストーリィに仕立てる必要があるのか、こんなに長々と書き綴る必要があるのか。
これはもう典型的なアメリカ小説のスタイルとしか言う他ないものですが、このくどさ、私は好きではない。
そしてまた、人に頼られることによってしか自分に存在意義を見い出せないでいる、このレイという主人公像も、私は好きになれません。
なお、そんな悲惨な生活環境の中から何とか抜け出そうと奮闘しているダニエルネルソンの母子、そしてネリーズ、彼らに幸あらんことを、と祈る気持ちが読後に残ります。

   


      

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