K・M・ペイトン作品のページ


K.M.Peyton  キャスリーン・ペイトン、1929年生、英国の作家。美術学校の学生の時に商業画家だったマイケルと駆け落ち結婚。63年「難破船上の戦い」にて確たる作家の地位を獲得。“フランバーズ屋敷の人々”シリーズの第二部「雲のはて」にてカーネギー賞、シリーズ三部作全体についてガーディアン賞を受賞。「K.M.」はかつて夫婦合作の時に使用したK=キャサリン+M=夫マイケルをそのまま自らのペンネームにしたもの。

 
1.
愛の旅だち−フランバーズ屋敷の人びと1−

2.雲のはて−フランバーズ屋敷の人びと2−

3.めぐりくる夏−フランバーズ屋敷の人びと3−

 


   

1.

●「愛の旅だち−フランバーズ屋敷の人びと1−」● ★★
 原題:"FLAMBARDS"      訳:掛川恭子

 


1967年発表

1973年
岩波書店刊

1981年01月
岩波少年文庫

−絶版−

 

2009/06/07

 

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北上次郎さんが“大人もはまる児童文学作品”として本シリーズを推奨していたのが読もうと思ったきっかけ。

両親が事故死した5歳の時以来親戚中をたらい回しされてきたクリスチナは、12歳となった今度はラッセルおじの元に引き取られます。田園風景の中にあるそのフランバーズ屋敷は、ラッセルおじが馬と狩猟にばかり金をつぎ込んでそれ以外は見向きもしないため荒れ果てていた。
そう出だしを書くとバーネット「秘密の花園に共通するものがありますが、その後の展開は全く別もの。

従兄弟の長男マークは馬も巧みで、狩猟がこの世の全てという若者で、身勝手さ・粗暴さも父親と瓜二つ。一方、次男ウィリアムは馬から転落して片脚が不自由になったことを馬に乗らなくて済むというくらいの馬嫌いで、発明されて間もない飛行機大好き人間。おかげで父親からはすっかりいないも同然の扱いを受けているが、優しい心をもった若者。
こうした好対照の2派の間にはさまれてクリスチナはどうかというと、厩舎の使用人の一人ディックのていねいな指導の下に、馬と狩猟が大好きになっていく。
しかし、いつしか4人が成長していく中で各々の生きていく道は別れ、クリスチナも自分の歩むべき道の選択を迫られるというクリスチナという少女の成長物語。

理屈ぬきに面白いです。まず、馬を愛し馬とともに野をかけめぐる喜び、躍動感がたっぷり楽しめます。
また、馬と飛行機あるいは車という、時代の変化を象徴するような対比が面白い。
しかし、本ストーリィの面白さはそこに留まるものではありません。
馬と狩猟がこの世の全て、階級差別もあって当然と考えるラッセルおじ、マークは、世の中に他の価値観があり、自分たちと違う考え方・感じ方をする人間がいようなどとは想像すらしない頑なさを引きずる人間像。
一方、ウィルについては、夢中になっているものが馬と飛行機の違いだけと思えますが、時代の変化に対する感性を持ち、人の気持ちを思い測ることができるという柔軟さをもつ人間像。

少女の成長物語+人間ドラマ、そして変わり行く時代を描いている本シリーズ、これが児童文学?と思わせられる大河小説の片鱗を早くも見せ付けてくれます。
三部作の第一巻である本書の最後、初めて自らの意思で新たな旅だちに踏み切るクリスチナ、今後の展開が楽しみです。

   

2.

●「雲のはて−フランバーズ屋敷の人びと2−」● ★☆
 原題:"THE EDGE OF THE CLOUD"      訳:掛川恭子

 


1969年発表

1979年
岩波書店刊

1981年01月
岩波少年文庫
−絶版−

2009/07/21

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第1巻の最後、手を携えてフランバーズ屋敷を後にしたクリスチナウィルのその後を描く巻。
第1巻では物語の中心は“馬”にありましたが、第2巻ではそれが“飛行機”に代わります。
本書は、初期の飛行機時代にかけた人々を描いた巻。その主役となるのがウィルであるのは、勿論のこと。

第1巻でまさしくヒロインだったクリスチナは、本巻では全てにおいて飛行機優先のウィル、危険をものともせず大空へ舞い上がるウィルのことを常にハラハラと見つめる存在という立場に追いやられています。
そのため、面白いかと言われると、第1巻において躍動感を漲らせていたクリスチナの姿はなく、余り面白いとはいえません。
「フランバーズ屋敷の人びと」三部作を構成する1巻でなかったら、恐らく面白くなかったで終わってしまったかと思う巻。

ひとつのことだけに夢中になって、その他一切のことに対する配慮をどこかにやってしまう。馬が飛行機に代わっただけで、ウィルもまたフランバーズ屋敷の一員であることがこの巻では明らかです。そしてそこから逃れられないのもまた、クリスチナの運命か。
そしてようやく安定した生活を望めるようになったのも束の間、第一次大戦が2人の生活設計に影を落とす。

 

3.

●「めぐりくる夏−フランバーズ屋敷の人びと3−」● ★★
 原題:"FLAMBARDS IN SUMMER"      訳:掛川恭子

 


1969年発表

1979年
岩波書店刊

1981年01月
岩波少年文庫

−絶版−

 
2009/07/25

  
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ウィルが戦死し、ラッセル家の長男=マークもまた戦地で消息不明。
第3巻は、荒れ果てたフランバーズ屋敷に戻ってきたクリスチナが、自らの手でフランバーズ屋敷と農場を再建する物語。

フランバーズ屋敷が再び舞台となり、クリスチナが再び主役となったことから、第1巻の面白さが蘇ったようです。
とはいえ、屋敷や土地は荒れ果て、屋敷に残っていたのは年老いた召使ファウラーメアリーの2人のみ。
屋敷に戻ったクリスチナが第一に感じたように、物語には荒廃と諦観が漂う。
それを変えていくのは、クリスチナが探し出して養子にし連れ帰ったマークの庶子ティジーと、屋敷に戻ってから生まれた亡きウィルとの娘イザベル
そして、戦傷でやせ衰えたディックがクリスチナの願いを入れて屋敷に戻り、農場再建に向けクリスチナの支えとなる。
しかし、屋敷が明るさを取り戻した時、消息不明だったマークが突然に戻り、ティジーとの関係、ディックとの関係、そしてクリスチナの屋敷における立場と、暗雲が漂い始める。

父子の問題、階級社会の問題、戦争問題といろいろな要素を含んだ大河小説といえる本物語、本当に児童向け小説だろうかと、いつも感じてしまいます。
とはいえ、三部作の「フランバーズ屋敷の人びと」、一応本巻で決着ということですが、最後、まだまだクリスチナの物語は続く筈、と感じます。
12年後に続編となる「愛ふたたび」が書かれたのも、必然と言うべきでしょう。

    
第4・5部 愛ふたたび

       


 

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