アン・フィリパ・ピアス作品のページ


Ann Phillippa Pearce  1920年英国ケンブリッジ州生、ケンブリッジ大学卒。後に英国放送協会(BBC)で学校放送を担当。「トムは真夜中の庭で」にてカーネギー賞を受賞。2006年死去。

 


 

●「トムは真夜中の庭で」● ★★           カーネギー賞
 
原題:"Tom's Midnight Garden"       訳:高杉一郎




1958年発表

1975年11月
岩波少年文庫
2000年06月
新版
(720円+税)

 

2009/11/09

 

amazon.co.jp

弟のピーターがはしかにかかったため、トムはおじさんとおばさんの暮らすアパートに暫く世話になることになります。
友だちもおらず、庭もないというアパート暮らし。
夜中、広間の古時計が13時を鳴らしたことにふと気づいて起き出したトムは、開かない筈のドアの向こうに、庭園が広がっている光景を目にします。
それからのトムは、毎晩のようにベッドを抜け出し、庭園に入り込みます。そしてそこでトムは、ハティという少女と知り合い、毎回のように2人は一緒に遊びますが、その度にハティの年齢は異なっている。
本書は“時”を重要な要素とした物語です。

ただ“時”だけでなく、いろいろな名作と共通する要素を持ち、そのうえで子供の頃遊んで庭の思い出を織り込んだ物語、そんな印象です。
実際、本書に登場する庭園は、作者が育った製粉工場の庭をモデルにしたものであるという。
ドアを抜けた向こう側という設定からは、C・S・ルイス「ナルニア国物語への連想を、庭園での秘密の遊びからはF・バーネット「秘密の花園を思い出さずにはいられません。
また、出会うたび相手の年齢が変わっていくという展開は、本書より後の作品ですが、ニッフェネガー「タイムトラベラーズ・ワイフが思い浮かぶという具合。

それだけですと、単なるファンタジー+ノスタルジー趣向の児童小説というに留まるのですけれど、本書の魅力はエンディングにあります。
トムとハティが時間を超えて再会し、まるで親友同士のように抱き合う姿が、何とも嬉しい。
そこへ繋がっていく物語だからこそ、本物語には大切にしたい色々な想いが詰め込まれている、と思うのです。

         


 

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