パク・ヒョンウク作品のページ


1967年韓国ソウル生、91年延世大学社会学科(哲学専攻)卒。2001年「同情のない世に中」にて第6回文学トンネ新人作家賞を受賞し、作家デビュー。

 


   

●「もうひとり夫が欲しい」● ★☆       訳:蓮池薫




2006年発表

2008年03月
新潮社刊

(1800円+税)

 

2008/05/04

 

amazon.co.jp

美人で気立てが良くて、ばりばり仕事をこなし、家事も完璧。そしてセックスも素晴らしいという妻を手に入れて「僕」は幸せの絶頂にある。そんな新妻が1年間の単身赴任=週末婚状態となったら、心配で仕方ないというのも当然のこと。
そんな僕の懸念が当たったかのように、ついに妻が爆弾宣言。
「私、男ができたの」「私、彼と結婚したいの」「あなたとも離婚したくないの」「だったら?」
・・・・まさか、まさか、まさか・・・。
本書は韓国で話題騒然となり映画化も決定済という、前代未聞の重婚小説!とのこと。

2人とも愛しているから、2人と結婚したい、それが一番良い方法だと妻は主張します。当然の如く夫である僕は拒絶、何とか諦めさせようとします。
しかし、形式的に常識論を並べるだけの僕は、“一夫多妻制”は良くて“一妻多夫制”が何故いけないの?等々、堂々と反駁する妻の弁にまるで太刀打ちできない。
まして、普通に一夫一婦制の結婚をしながら離婚、再婚を繰返している僕の姉たちに照らすと、常識に添っているからといって幸せになれるとは限らないという彼女の主張は、何やらとても説得力をもってしまうのです。
本作品は、そんな2人の論争がとても愉快で魅力的。その点、小説よりも戯曲向き、さらに映画化には恰好のストーリィ。

愉快なことは愉快なのですが、もうひとつ満足とまで至らなかったのは、2つの理由から。
ひとつは、妻が新しい恋人と結婚式を挙げて堂々と重婚生活を始めてしまった以降の、僕のウジウジした様子。
そんなにウジウジするくらいなら、いっそ離婚して諦めればいいと思うのですが、そんな僕の気持ちも判るんですよね。まして愛する娘まで誕生してしまうのですから。
そんな主人公の気持ちがリアルに感じられるからこそ、本作品は面白いのですが。
もうひとつ、本書にはサッカーの話題がふんだんに登場します。
熱烈なサッカーファンである僕は、数々のサッカーの名試合、名だたる選手のプレー振りから教訓を得つつ、本書の難問題に立ち向かいます。
最初こそ面白かったものの、全頁数の半分を費やす位ずっとそれが続くと、サッカーファンでない人間にとってはいい加減うざったい。

テンポ良く、軽く楽しめるユーモア小説。
でも深く考えていく程、非常識といって非難するだけでは終わらない面がある、というのが作者の曲者たるところでしょうか。
おっと、決して重婚を賛美している訳ではないので、念のため。

    


   

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