ジョージ・オーウェル作品のページ


George Orwell 1903〜50年 イギリスの作家。本名:エリック・アーサー・ブレア。インドで生まれ、イギリスのイートン校卒、 インド帝国警察勤務。1922年から5年間ビルマにて勤務後退職、イギリスへ戻り文筆生活へ。「動物農場」「1984年」が有名。


1.パリ・ロンドン放浪記

2.カタロニア讃歌

 


 

1.

●「パリ・ロンドン放浪記」● ★★★
 
原題:“Down and Out in Paris and London(1933)”

  

 
1933年発表

1989年04月
岩波文庫刊

  
1995/04/23

 

amazon.co.jp

まさに良書!、と言うに尽きる一冊です。
本書を読んで、ジョージ・オーウェルという作家あるいは文明評論家を再評価する気持ちになりました。
本書は、オーウェル自身の実体験を元にしたルポタージュ。

パリでの窮乏生活。元ウェイターのボリスと共に職探しに歩き回り、遂にはホテルレストランの皿洗いという底辺と言うべき労働者階級の生活にどっぷりと漬かる。その中では、レストランの従業員のランクを元にした文明批評を試みています。
ロンドンに帰ってからは、更に落ちた浮浪者並みの生活を送る。安宿、救貧院、浮浪者収容所、遂には救世軍にまで至ります。
現実問題として、こうしたルポタージュを実体験に基づいて書ける人間などきわめて稀でしょう。そうした極貧生活に耐えられないか、または文才が無いか。

本書はオーウェルにとって処女作ですが、大きな価値ある一冊です。何より偉ぶっていないところに好感が持てます。本書中で、著者は周囲の人間と全く変わるところはありません。唯一異なるところと言えば、事実を事実としてはっきりつかむことのできる確かな眼、そして確かな文才です。
1ヵ月という時間をかけて読んだ割には、まるでそんな気がしないほど充実感を味わえた一冊でした。
なお、パリの部分は小説の要素が濃く、ロンドンの部分は社会観察の要素が濃い、と感じられました。

 

2.

●「カタロニア讃歌」● ★★

 

1938年発表

 
1992年05月
岩波文庫刊

 

1995/06/18

オーウェルが、POUM(マルクス主義統一労働者党)の民兵として、スペイン戦争に参加した時 のルポタージュ。
自ら兵士として参加したという生の現実感と、オーウェルの自在な視点が感じられて、好著と言える一冊です。

オーウェルは、人民は全く平等であるという思想に共鳴してこの戦争に参加します。参加した当時、お互いに“同志”であり、街中においても軍においても平等ということが、何よりも徹底浸透しています。その辺りが貴重。
また他方においては、この戦争には可笑しさがあります。ろくに銃もないというのに、皆奇妙に明るい。戦争で一番困ったこと、一番欲しかったことが、タバコというのも奇妙な現実です。
この戦争に参加したことにどんな意味があったのか。その体験の価値を表しているのが、このルポタージュだと言えます。一時、皆が意識の上だけでも平等になったということは、素晴らしいことです。しかし、同時に、それは決して長続きしないことだったのでしょう。
このルポ中、幾つかオーウェルが記した気の効いた文章に出会います。
「これは戦争などではない。時々死人の出るコミック・オペラだ」等々。そして、圧巻はオーウェル自身が撃たれた場面。克明で臨場感に溢れていて、そのくせ、その場における愉快な医者とのやり取りが可笑しい。
戦争という一般のイメージとかけ離れた戦争の現場が、この一冊の中には描かれています。

 


 

to Top Page     to 海外作家 Index