ウーリー・オルレブ作品のページ


Uri Orlev 1931年ポーランド・ワルシャワ生。第二次世界大戦中、ゲットーや隠れ家住まいをし、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で2年間過ごしたのち、移送中に終戦を迎える。半年後、14歳で弟とイスラエルへ移住し、ヘブライ語を学び教育を受け直す。25歳の時ホロコーストの体験を「鉛の兵隊」にて発表。96年国際アンデルセン賞作家賞を受賞。

 


                                   

「走って、走って逃げろ」 ★★☆     
 
原題:"Run Boy, Run"           訳:母袋夏生


走って、走って逃げろ

2001年発表

2015年06月
岩波少年文庫

(720円+税)



2022/03/06



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ドイツ軍のポーランド侵攻により、スルリックの家族(両親・兄2人・姉2人の末っ子)は、ゲットーへ強制移住されます。
しかし、そこも安全とは言えません。
母親の姿が突然消えうせ、迷子となったスルリックは、孤児たちの仲間に入り、幸運にもゲットーからポーランド人居住区への脱出に成功。
 
自分と同じような境遇の子どもたちの集団に加わり、その中で生き延びるための工夫、手段を教わります。
しかし、ドイツ兵の攻撃に再び一人となり、見知らぬ村、農家を転々として牛や羊の世話をしながら生き延びます。
奇跡的に再会した父親からポーランド人らしい名前(
ユレク・スタニャク)を与えられ、ユダヤ人と知りながらキリスト教徒のフリをすることを仕込んでくれたおばさんや、親切な農家たちのおかげ。
それでも執拗にドイツ兵はスルリックを追い詰め、何度も危機一髪が繰り返されます。そしてついに・・・。

本作は、イスラエルに住む
ヨラム・フリードマンから聞いた実体験を元に作者が書いた物語だそうです。
僅か8歳で悲惨な状況に陥り、それでも過酷な運命・試練を乗り切った主人公のがんばりには驚く他しかありません。
また、その過程で、脱穀機に挟まれ右腕を失うことになった経緯の痛ましさには、読む側の方こそ気持ちが挫けそうになります。

上記のとおり極めて悲惨かつ過酷な物語ですが、“逃走”冒険物語のようにも読めるのは、どことなく明るさが感じられるからです。
それは、スルリックが決して諦めなかったこと、そして彼を庇護してくれた人たちへの感謝・誠実さを忘れなかったからのように思います。

児童向けの一冊ですけれど、大人にもお薦めです。

まえがき/1.返事はなかった/2.盗みができるか?/3.森が守ってくれる/4.焼いた鳥/5.ひとりで森に/6.ジャガイモ畑で/7.もし、とっても困ったら/8.ビンタ賃/9.アゾール/10.ずぶずぶの沼地/11.脱穀の季節/12.片腕と両足/13.ヴィスワ川の向こう岸へ/14.ソ連軍が来る、と検札係がいった/15.地雷/16.ほんとに戦争がおわった/17.誘拐/18.おれたちの神さまと同じ神さまだ/その後

     


        

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