クセニヤ・メルニク作品のページ


Kseniya Melnik  1983年ロシア北東部の町マガダン生まれ。98年15歳の時に家族とともに米国アラスカ州に移住。ニューヨークのコルゲート大学で社会学を専攻した後、様々な仕事に従事しつつ文芸誌に小説を発表し始める。ニューヨーク大学で創作修士号を取得した後は教鞭を取りながら執筆を続け、2014年に第一短編集となる「五月の雪」を刊行。現在ロサンゼルスに居住。

 


             

「五月の雪」 ★★★
 原題:"Snow in May"   
   訳:小川高義


五月の雪

2014年発表

2017年04月
新潮社刊

(2000円+税)




2017/05/28




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旧ソ連時代、強制収容所が置かれた北東部の町マガダンを起点にした連作風短篇集。

どの篇も平凡な人々の日常、人生を鮮やかに切り出したストーリィ。そこには哀感が満ちていますが、それと同時にどこかユーモアが感じられます。
そこに本短篇集の秀逸さと魅力があると言って過言ではありません。とにかく読んでいて魅せられるばかり。

その代表例ともいえる篇が、冒頭の
「イタリアの恋愛、バナナの行列」。買い物のためアバダンからモスクワにやってきた既婚女性のターニャ、同じ飛行機に偶然乗り合わせたイタリア人サッカー選手団の一人から、ナンパを受けます。
どうしようか気持ちが揺れる一方で、必死に買い物に歩き回り、そして不運な目に遭うターニャの身の上が、気の毒ではあるのですがユーモラスでもある。その微妙なブレンドがなんとも魅力的です。

本書で、作者の目は常にロシアとアメリカの両方に向けられています。
「皮下の骨折」は、マガダンで生まれ育ちながら今は米国カリフォルニアでゴルフを楽しんでいるトーリクの元に、かつて親友であったトーリャンから20年ぶりに電話がかかってきます。
2人が大人になっていく過程で、どんな違いから現在の境遇の違いになったのか。そのドラマもまた興味深い。
本書では、トーリクの娘である
ソーニャの少女時代、またソーニャの母方の祖母であるオーリャの半生といったように、本書ではソーニャの家族を主軸にして多様なドラマが描かれます。

なお、本書では、ソ連邦時代の暮らしぶりがリアルに描かれているところが見逃せません。日本や米国から見たら驚くような日常生活がありますが、だからといって全てに米国が勝っているという訳では決してないということは、
「クルチナ」に描かれているとおりなのでしょう。

少女の視点から描かれた
「絶対つかまらない復讐団」「夏の医学」も中々に味わいがあります。

イタリアの恋愛、バナナの行列/皮下の骨折/魔女/イチゴ色の口紅/絶対つかまらない復讐団/ルンバ/夏の医学/クルチナ/上階の住人

    


 
新潮クレスト・ブックス

  

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