フランク・マコート作品のページ


Frank McCourt  1930年アイルランド移民の長男として米国ニューヨークに生れる。4歳の時にアイルランドの町リムリックに移住、極貧の生活を送る。19歳の時に単身ニューヨークに渡り、様々な職業を経て高校教師(英語と作文)、87年退職。96年自らの幼少時代を描いた処女作「アンジェラの灰」にてピュリッツァー賞を受賞、ベストセラーとなる。

 
1.
アンジェラの灰

2.アンジェラの祈り

 


    

1.

●「アンジェラの灰」● ★★★
 
原題:"Angela's Ashes"     訳:土屋正雄

  
アンジェラの灰画像   
 
1996年発表

1998年07月
新潮社刊


2004年01月
新潮文庫
上下
(各629円+税)

 

2006/02/04

 

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アメリカ生活に行き詰まり、両親は生まれ故郷のアイルランドに戻ります。しかし、戻ったアイルランドの町リムリックでも、マコート一家の状況は極貧生活。
本書は、そんな著者自身の少年時代を描いた回想記です。

マコート一家の極貧生活の理由は単純。飲んだくれでろくでなしの父親の所為。
やっと仕事に就いても給料をもらうとすぐ酒で飲んでしまい、翌日は無断欠勤し首になるということの繰り返し。
失業手当をもらっても父親が受け取ると酒に変わり、給料にしろ失業手当にしろ家族の元には届かない。それなのに子沢山。
3人の弟妹が幼いうちに死んでしまいますが、その後に2人の弟が誕生しています。
母親アンジェラは生活の糧を援助団体に頼り、ついには乞食寸前の真似までする。母親が病気中で動けないとき、長男フランクは空腹に耐えきれず盗みをして弟たちにパンを食べさせる。祖母や叔母に頼れば喚き散らされ、殴り飛ばされることもしばしば。
現在の私たちの生活からみると悲惨としか言いようのない状態ですけれど、それでもフランクや弟たちは父親を愛し、物怖じすることなく明るく、元気です。
貧しいからといって卑屈になることも他人を羨むこともなく、ユーモアの感性を忘れることがない。その点が本書の素晴らしいところです。
父親を愛しているといっても、事実上父親のおかげで迷惑を蒙っていることも多い。戦争が始まり軍需景気目当てに父親がイギリスに働きに出かけた時、母親とフランクの間で交わされる「もうやっかいごとは全部終わりだよ」「そうだね、ママ」という会話には笑ってしまいます。フランクの興奮ごと等、その他にも笑ってしまう場面は幾つもあります。

貧しいからこそ自立心が育つのでしょうか。フランクは16歳になると働き出し、自らの才覚で「アメリカに行く」ための資金を貯めていく。
悲惨な極貧生活、からっと明るいユーモア、母親や弟たちへの愛情、旺盛な自立心、それら全てが味わえる本書は回想記の傑作というべきでしょう。
ディケンズの小説とは違い、ノンフィクションだからこその得難い味わいが本書にはあります。お薦め。

      

2.

●「アンジェラの祈り」● ★★☆
 
原題:"'Tis:a memoir"     訳:土屋正雄

  
アンジェラの祈り画像
 
1999年発表

2003年11月
新潮社刊

(2800円+税)

 

2006/03/07

 

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19歳で単身アメリカに渡ったフランキーのその後を綴るアンジェラの灰の続編。前作同様、たっぷりとした読み応えのある一冊です。
アメリカに着いたからといって万事が順調に進むものではない。そのことを著者は思い知らされます。それでも船で知り合った司祭から下宿と仕事先を紹介してもらえたのは未だ幸運だったと思う。
ホテルの掃除人、港湾倉庫会社での肉体労働、そして徴兵。徴兵期間中に書記を命じられタイプに上達、除隊・ニューヨークに戻ってから復員兵援護法を利用してニューヨーク大学に入学する。そこで教員資格をとって、卒業後何とか職業技術高校教員の職にありつく。相当な安給料だったようですが。

アメリカでの生活は常に劣等感に苛まれ、常に底辺にしがみついているような生活。それでも他者を羨んだり、僻んだりすることなく、自分の至りなさばかりを嘆く。つい哀れんでしまいそうになりますが、これって凄いことなのではないか。
金がなくてもNYで一人っきりでも、著者が絶望にかられることは余り無かったようなのですから。アイルランドの故郷リムリックで極賓の生活体験があるからなのかもしれません。
同じような境遇でどれだけ多くの人が道を踏み外していったか。安易にくっつき、酒に走り、アメリカでの生活に失敗した父親と比較してもそれは感じられます。しかも、教職に就くより港湾倉庫会社で肉体労働していた方が給料は高く、同じアイルランド人から仲間外れにされることもなかった筈というのですから。
それでも著者が安易な道を選ばなかったのは、高邁な目標があったからではなく、倉庫会社の仕事で知り合った黒人ホレスの誇り高い人柄のおかげ。目標を諦めて安易な道を選んだらホレスに軽蔑されるに違いないという一念が著者にはあった。。
このホレスという黒人との関わりは、全体中僅かな部分に過ぎませんけれど、本書において忘れ難いエピソードです。

恋人にふられ、教師の仕事も満足に全うできないと嘆き節ばかりが聞こえますが、それは著者の素直さ、謙虚さの現れと受け止めるべきでしょう。
劣等感に苛まれながらも少しずつ地歩を固めていく過程を淡々と書き綴っているところに、本書の味わい深さがあります。
そんな著者にあっても、結局アイルランド人気質を抜け出すことは出来なかったところが、何とも微笑ましい。
「アンジェラの灰」を読んだなら読まずにはいられない続編。

  



新潮クレスト・ブックス

    

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