ハリエット・アン・ジェイコブズ作品のページ


Harried Ann Jacobs  1813-1897 米国ノースカロライナ州出身。幼くして両親と死に別れ、12歳で35歳年上の白人医師の家の奴隷となり性的虐待を受ける。苦難に満ちた自身の半生を記述した著書が 126年後の1987年に自伝であることが判明し、米国でベストセラー。

 


             

「ある奴隷少女に起こった出来事」 ★★☆
  原題:"Incidents in The Life of a Slave Girl"
 
    訳:堀越ゆき 




1861年発表

2013年04月
大和書房刊

2017年07月
新潮文庫

(680円+税)



2018/09/23



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自由で幸せな一家であると思っていたのに、母の死後、自分たちは相続財産である奴隷に過ぎなかったと 6歳になったリンダ・ブレントは思い知らされます。
そして12歳になった時、善良で自分たちに好意的だったお嬢様が死去、リンダたちはお嬢様の姪に相続され、実質的な支配者となったのはその父親である
ドクター・フリント
そのフリントは、極めて好色な医師。35歳も年上ながらさっそく美少女のリンダに目を付け、あらゆる策略を張り巡らし、リンダを自分の欲の餌食にしようとします。
それに対してリンダが選んだ究極の対抗策とは、別の白人男性の子を身籠るということ。
しかし、それでもフリントは長年に亘って執拗にリンダを追い続け、また奴隷の子は奴隷という訳で、リンダは自分の子の運命という重荷も背負うことになります。
そんなリンダが次に選んだ道は・・・。

主人公のリンダ・ブレントとは、著者であるハリエット・アン・ジェイコブズ自身。
これは小説ではなく、著者の人生そのもの、自由を得るために闘い続けた実記録に他なりません。
リンダが生きた19世紀、既に奴隷から解放され自由な身分となっている黒人もいるし、所有者次第によってかなり自由な行動を許されている場合もあったようです。

奴隷といっても、所有者次第によって安穏な生活が許される場合もあれば、隷属以外の何ものでもない場合もある。
しかし、“所有”される立場である以上、所有者が変わればいつ何時安穏な生活を奪われるかもしれません。生活だけでなく、家族一緒に暮らすことさえも。
リンダ・ブレントがあらゆる犠牲を払っても手に入れようとしたのは、あくまで“自由”であった、その気持ちが真摯に伝わってきます。

一方、フリントのように、奴隷には感情がないと思い込んでいる人物。しかし、それはそれで、彼らにとっては当たり前の<事実>だったのでしょう。
そして、奴隷に対して好意的だった人物にしろ、自分がいれば大丈夫と考えている程度で、自由を得る重要性まで認識していない。

要は、奴隷制度にしろ、LGBTにしろ、学校のイジメ問題にしろ、相手の状況に対する人間としての、想像力の如何が鍵になっているように思います。

奴隷制度の哀しさ、現代社会にも通じる問題として、お薦め。

※時代は異なりますが、映画「ヘルプも是非お薦めです。

T.少女時代 1813-1835
1.わたしの子ども時代/2.フリント家での奴隷生活/3.奴隷が新年をこわがる理由/4.戦いのはじまり/5.少女時代の試練/6.フリント夫人のおそろしい嫉妬/7.赦されなかった恋/8.奴隷所有者の日常/9.忍びよる危険/10.対決/11.もう一つのいのち/12.ドクター・フリントの策略/
U.逃亡 1835-1842
13.プランテーション/14.逃亡/15.危険な日々/16.子どもたちが売られる!/17.新たな危険/18.屋根裏/19.クリスマスの休息/20.やまい/21.サンズ氏、下院議員に選出/22.目には目を/23.弟に訪れた転機/24.子どもたちの運命/25.ナンシーおばさん/26.運命の輪/
V.自由を求めて 1842-1861
27.北へ!/28.フィラデルフィア/29.娘との再会/30.ブルース家/31.迫り来る追手/32.裏切り/33.差別のない国へ−イギリス訪問/34.南部からの手紙、ふたたび/35.娘に出生の真実を打ち明ける/36.逃亡奴隷狩り/37.戦いの終わり

     


    

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