フランシス・ハーディング作品のページ


Frances Hardinge  英国ケント州生、オックスフォード大学卒。2005年デビュー作“Fly By Night”にてブランフォード・ボウズ賞、14年“Cuckoo Song”にて英国幻想文学大賞、15年「嘘の木」にてコスタ賞の児童文学部門および大賞を受賞。

1.嘘の木

2.影を呑んだ少女 

3.呪いを解く者 

 


             

1.

「嘘の木」 ★★☆            コスタ賞児童文学部門・大賞
  原題:"The Lie Tree"
 
    訳:児玉敦子 


嘘の木

2015年発表

2017年10月
東京創元社

(3000円+税)

2022年05月
創元推理文庫



2018/07/19



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19世紀後半の英国、そのヴェイン島を舞台にしたファンタジーなミステリ。

牧師であり高名な博物学者でもある
エラスムス・サンダリーは、新発見の化石を捏造したという批判を受け、一家4人でヴェイン島に渡ってきましたが、その島でサンダリー師は不審な死を遂げます。
自身もまた博物学に興味を持つ
14歳の娘フェイスは、虚偽、そのうえ自殺という汚名を負わされた父親の名誉を守るため、事件の真相を明らかにしようと行動し始めます。

フェイスが選んだ方法は、父親が隠し持っていた
<嘘の木>という不思議な植物を利用しようというもの。
その嘘の木、人の嘘を養分にして育、嘘が広まれば広まる程大きな実をつける。そしてその実を食せば、極秘の知識を得られるのだという。

ファンタジー作品として読み進みましたが、嘘の木というファンタジー要素はあるものの、内容としてはミステリと言うべきでしょう。
そして、それ以上に強く印象付けられたのは、19世紀の英国という世界における、女性たちの生き辛さ、制約の多さです。
フェイスが父親を盲目的に敬愛するのに反して、女性は劣る存在と決めつけている父親の、娘に対する目は冷ややかです。
それはフェイスだけでなく、
母親マートル、ヴェイン島の治安判事であるランバントの夫人アガサにしても同様です。

<嘘の木>とは本物なのか。
サンダリー師の死は、<嘘の木>を巡る争いが原因なのか。
暴走としか言いようがありませんが、フェイスが探偵役。
最後の対決場面は、それまでの展開からして、ハラハラし通しでした。
<嘘の木>と、制約された中で女性たちが少しでも自分らしくと繰り広げた、生きるための闘いという残像が、いつまでも鮮明に残り続ける気がします。


1.逃亡者たち/2.ヴェイン島/3.雄牛の入江/4.死者の洞穴/5.頭蓋骨とクリノリン/6.黄色い目/7.しのびよる霜/8.にじんだ文字/9.告白/10.海の洞窟/11.蹄鉄/12.とまった時/13.トリック写真/14.葬儀/15.嘘と木/16.怒れる魂/17.幽霊退治の銃/18.きょうだいげんか/19.訪問者たち/20.森のなかで笑う人/21.自然発火/22.亀裂にあてた鑿/23.しのびこむもの/24.震え/25.獣に乗って/26.亜歯/27.ナイフのような沈黙/28.白い目と震える皮膚/29.マートル/30.小さな死/31.ウィンターボーンという人/32.悪魔祓い/33.爆薬と火花/34.遺された妻/35.適者生存/36.進化

               

2.
「影を呑んだ少女」 ★★☆
  原題:"A skinful of shadows"
 
    訳:児玉敦子 


影を呑んだ少女

2017年発表

2020年06月
東京創元社

(3273円+税)

2023年08月
創元推理文庫



2020/10/07



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清教徒革命が勃発した時代の英国を舞台にした、ホラー・ファンタジーとでも言うべき、少女の成長と戦いを描くストーリィ。
これが本当に面白い。

主人公の
メイクピースは、たった一人の家族である母親から奇妙な訓練を重ねさせられます。
それは、夜の墓場で襲いかかかってくる幽霊に立ち向かい、それを斥けさせるというもの。
やがて暴徒に巻き込まれて母親が死ぬと、メイクピースは母親が身重の身で逃亡してきた場所、
グライズヘイズの領地に住むフェルモットという古い一族の館に引き取られます。

このフェルモット家というのが実に奇怪な一族。何しろ死んだ人間の霊に憑りつかれる(=影を呑む)という不思議な能力を代々受け継ぎ、そして・・・・というのですから。
既に故人となっているメイクピースの実父もその一人であり、その能力は何とメイクピースにも伝わっているのです。
しかし、メイクピースの扱いはまるで厄介者、女中も同然。さてメイクピースを引き取った一族の目的は何なのか。

やがて自分に襲い掛かってくるであろう恐ろしい運命、その一方で味方になる筈の人々を次々と失っていくメイクピース。
偶然の機会を捉えて館から逃げ出した彼女は、逃走を続けながら異母兄
ジェイムズを救い出すための戦いを始めます。
その過程で彼女の味方になるのは・・・・。

清教徒革命という混乱した時代が背景となっていますが、それはメイクピースの行動がより難しい時代であったというだけで、清教徒革命を語るのは本作品の狙いではありません。
むしろ過去の時代に舞台を借りたSF小説のようにも感じます。

息の詰まるような逃走劇、絶体絶命の危機が何度も訪れ、その度に間一髪で危機を免れることの繰り返し。
その中で、居場所を失って怯えるばかりだった少女が、何時の間にか強い女性に成長している姿が見事、圧巻です。
メイクピースと一番古い相棒になる○○とのコンビがまさに絶妙です。

面白さ抜群、読み応えたっぷりの一冊。是非お薦めです。


1.子グマをなめる/2.ゴートリーのネコ/3.モード/4.ジュディス/5.中間地帯/6.ホワイトハロウ/7.世界の終わり

          

3.
「呪いを解く者」 ★★☆
  原題:"Unraveller"
 
    訳:児玉敦子 


呪いを解く者

2022年発表

2023年11月
東京創元社

(3700円+税)



2024/01/05



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“呪い”を題材にしたファンタジー大作。
舞台となるのは、「
原野」と呼ばれる沼の森を抱える国<ラディス>。
そこには、クモのような姿をした<
小さな仲間>と呼ばれる存在がいて、誰かに対して憎しみを抱える人間(呪い人)に、相手を呪う力をもたらす。そして、その呪いを向けられた者(呪われた人)は、人以外のものに姿を変えられてしまう。

そうした世界で、15歳の
少年ケレンは、呪いを解きほどく特殊な能力を持っている。
そのケレンと行動を共にしているのは、継母の呪いによって兄姉と共に鳥に姿を変えられた処をケレンによって救われた同い年の
少女ネトル
二人はやがて、呪い人を拘束して安全を確保しようとする側<
友好問題委員会>と、それと対立する呪い人の集団<救済団>の抗争に巻き込まれ、幾多の危機に見舞われることになります。
本作は、そんなケレンとネトルの二人を主人公とした、冒険ファンタジー。

正直なところ、複雑にして難解な部分もあり、多少苦労するところもありますが、読み応えたっぷりの魅力に富んだファンタジーであることに何ら変わりはありません。
作者ならでは、流石に上手いと感じるのは、“呪い”の扱いの巧妙さ、です。

現実社会においても、誰かへの憎悪を抱くというのは、良くないことと頭では理解していても、絶対しないとまでは言い切れないことでしょう。しかし、憎悪を抱くことと実際に呪うという行為は全く別のこと。
呪うという行為は、呪った人にも、呪われた人にも、結局何の幸せももたらしはしない、ということを本ストーリィは教えてくれます。
それは昨今、現実に起きている武力抗争、侵略等の事実を思えばよく分かります。

ファンタジー好きな方には是非お薦めしたい、佳作です。


プロローグ/1.とがめ/2.ゴールという男/3.病院/4.小さな仲間/5.スパイク/6.さざ波/7.血と水/8.プラスク/9.ふたつの世界/10.ハベル/11.クローバー/12.親切/13.陰謀/14.ケシの実/15.赤い足跡/16.ペール・マロウ/17.助言と監督/18.ハーランド/19.復活者/20.コール/21.友好問題委員会/22.書記係/23.闇のなかの声/24.大移動/25.踊り星/26.影の戦いの終わり/27.叫ぶ雲/28.激しい怒り/29.手紙/30.贈り物/31.葦/32.石/33.チャリティ/34.ひび/35.崩壊/36.黒鳥/37.通い路/38.海へ/39.絹の城/40.罠猟師/41.敵/42.居場所/43.スパイ/44.戦略/45.ハーディガーディの風/46.絹の罠/47.仕返し/48.半分のチャンス/49.トンボ/50.いちかばちか/51.約束/エピローグ

   


    

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