フィリップ・グランベール作品のページ


Philippe Grimbert  1948年フランスのパリ生、パリ大学で心理学を学ぶ。現在パリで精神分析クリニックを開業中。精神分析にかかる著書3冊を出版後、2001年「ポールの小さなドレス」を発表、04年「ある秘密」にて高校生が選ぶゴンクール賞、および「エル」読者大賞を受賞。

 


   

●「ある秘密」● ★★
 
原題:"Un secret"     訳:野崎歓

  

 
2004年発表

2005年11月
新潮社刊

(1600円+税)

  
2006/01/15

 

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1950年代のパリが舞台。
スポーツ万能の両親から生れたにもかかわらず、主人公であるフィリップ少年は虚弱な一人っ子。
フィリップは悲しみや恐怖を感じる心を愛情深い両親に打ち明けることはできず、いつしか想像上の「兄」を作り上げることとなった。
両親とフィリップは、施療院を営むルイーズと親しい。フィリップが15歳になったある日、ナチスの非道を語るルイーズの言葉から、フィリップは周囲が自分に隠していた秘密の一端を知ることになります。
それはフィリップには兄となる少年がいたこと。そして、理想的なスポーツマン同士の夫婦と見られる両親の過去に隠されていた秘密、苦悩。戦時中のホロコーストの恐怖。
ルイーズが物語る、秘密のベールに隠されていた出来事を知り、自分が知っていることを両親に秘密にすることによって、フィリップは徐々に強い少年となっていきます。

本書で描かれているのは、著者自身のことだそうです。
約150頁と 比較的短い作品ですが、過去を物語っていく文章の端整な美しさに魅せられます。
親独系の仏政権下でユダヤ人一家にもたらされた過酷な運命。その事実をずっと胸に秘めた両親が抱えていただろう痛み。
両親とは別の秘密をもつことで痛みを共有した息子。
無駄のないシンプルな作品のもつ美しさ、感動を味わわせてくれる名品です。お薦め。

 



新潮クレスト・ブックス

    

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