トレント・ダルトン作品のページ


Trent Dalton  「ザ・ウィークエンド・オーストラリアン・マガジン」記者、「クーリエ・メール」の元アシスタント・エディター。優れたジャーナリストに贈られるオーストラリアのWalkley Award を2回、Kennedy Award を3回受賞。2018年「少年は世界をのみこむ」にて作家デビュー。

 


                                   

「少年は世界をのみこむ」 ★★★   
 
原題:"Boy Swallows Universe"      訳:池田真紀子


少年は世界をのみこむ

2018年発表

2021年02月
ハーバーコリンズ・ジャパン
(2600円+税)



2021/05/05



amazon.co.jp

全豪50万部突破、オーストラリアABIA年間大賞受賞作の由。

舞台は1980年代のオーストラリア、ブリスベン郊外。
主人公である少年
イーライ・ベンの周りは不穏と犯罪に充満している。父親のことは何も知らず、母親はヘロインに溺れている。一歳上の兄オーガストはある時から言葉を発しなくなり、意思疎通は手振りによるだけ。
母親の恋人である
ライル・オーリックが兄弟の父親代わりですが、そのライルは麻薬密売人であり、母親を麻薬中毒に巻き込んだ張本人。学校ではベトナム系移民の同学年生から手酷いイジメに遭っている。
そんなイーライにとってただ一人といって良い友人は老ベビーシッターの
スリムですが、32年前に殺人罪で終身刑を受け、何度も脱獄を成功させた有名人物でもある、といった具合。

要はそのイーライの、12歳から18歳に至るまでの波乱万丈な少年の苦闘&成長ストーリィ。
状況は暗いばかりですし、周囲の登場人物も犯罪者ばかり。母親はボロボロ状態で、兄の行動も理解不能。そのうえストーリィ展開は長たらしいし 600頁寂弱という大部な一冊。
でも、読み続けていれば、いずれ光は見えてきます。本作はそうした作品。

イーライは決して勇敢な少年という訳ではありません。恐ろしさに覚えることもありますし、ちびりそうにもなる。でもイーライが素晴らしいのは、そんな運命に抗い続け、自分が求めるものを諦めないこと、そしていずれ警察記者になりたいという目標を捨てないこと。
面白いのは、イーライを助けてくれるのが、スリムから聞いた脱獄のテクニックだったり、教えや、勧められて行った文通だったりすること。人生とは何が役立つか分からないものです。

そして終盤、これまでのディテールは全てここに繋げるためだったのか、と思うくらい驚くべき展開が畳みかけるように続きます。
果たしてイーライは窮地を脱して、自分の道を掴み取ることができるのか!
この大部な作品を読み通してきて初めて味わえる興奮、達成感がそこにあります。
イーライ少年よ、よくやった!と誰しも思うことでしょう。
是非、お薦め!


少年、言葉を書く/少年、虹を作る/少年、あとを尾ける/少年、手紙をもらう/少年、雄牛を倒す/少年、運に見放される/少年、脱走を図る/少年、少女と出会う/少年、モンスターを目覚めさせる/少年、バランスを崩す/少年、助けを求める/少年、海を分ける/少年、海を盗む/少年、時間を征服する/少年、幻想を抱く/少年、クモを噛む/少年、首縄を締める/少年、どこまでも掘る/少年、空を飛ぶ/少年、海をあふれさせる/少年、月を征服する/少年、世界をのみこむ/少女、少年を救う

     


        

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