オクテイヴィア・E・バトラー作品のページ


Octavia.E.Butler  1947−2006年、SF作家。アフリカ系アメリカ人で米国カリフォルニア州パサデナ生まれ、パサデナ・シティカレッジにて68年準学士を取得後、カリフォルニア州立大学ロスアンゼルス校に進学、ライティング・コースを受講。
84年「話す音」にてヒューゴー賞短編小説部門、「血を分けた子ども」にて84年ネビュラ賞中編小説部門、85年SFクロニクル賞ノヴェレット部門・ローカス賞ノヴェレット部門・ヒューゴー賞中編小説部門、88年「夕方と、夜と、朝と」にてサイエンス・フィクション・クロニクル賞、95年SF作家として初めてマッカーサー賞(天才賞)、2000年PEN生涯功労賞を受賞。

 


                          

「血を分けた子ども ★★☆
 原題:"Bloodchild and other stories"
       訳:藤井光


血を分けた子ども

1996,2005年

2022年06月
河出書房新社
(2350円+税)



2022/08/26



amazon.co.jp

数々のSF系文学賞を受賞した表題作を含む、短編小説7篇&エッセイ2篇を収録した作品集。

SFというと冒険、未来といった印象がありますが、本作品集はちと違う。
つまり、SFという設定を借りただけ。描かれている内容は未来世界というより、現在ならびに過去から繰り返されてきた問題だと思います。

地球外生命体との共存、もはや支配者と言うべき異星人の示した方法に従って人類は生きるしかない。屈辱的で腹立たしいことこのうえない状況ですが、生き延びるという道を選択するのであれば服従するしかない・・・。
「血を分けた子ども」「恩赦」はそうした物語。
ことに前者は、節足動物のような容姿である異星人の卵を、男女を問わず受けれなければならないという定め、そこに愛はありうるのか、というストーリィ。

屈辱的だが生き延びるためなら服従を受け入れるしかないのかという選択肢は、現在進行中のロシアによる無差別的なウクライナに対する攻撃を連想させられます。
戦闘は膠着状態と言われますが、ウクライナの犠牲は増える一方で、焦土化と言って良い状況。それはウクライナが降伏しないからだと公言するロシアの傍若無人さは、もはや異星人と言っても違和感はありません。

意思に反する妊娠、しかも相手は異星人となったら、これはもうおぞましい。
しかしそれは、強姦され妊娠させられた女性と何が異なるのでしょうか。さらに中絶さえ法律で禁じられたとしたら。強姦でも産むべきだという主張は相手が異星人であっても共通することのように思いますが、はてそうなのか。
地球外生命体により人類が受ける理不尽さ、それこそ歴史上、アフリカから多くの黒人が白人によって連れ去られ、奴隷として牛馬同然にこき使われて味わった黒人の悲哀さと、何が違うのでしょうか。

「夕方と、朝と、夜と」は遺伝的疾患、「話す音」はコミュニケーションを題材としたストーリィ。
そして、最後を飾る
「マーサ記」、これが滅法面白い。43歳の女性マーサの前に神が現れ、破滅的な状況にある人類が今後も生き延びられるようにするための改善策を考えよ、と求めてくるストーリィ。こんな問いに答えられる人はいるのでしょうか。

※各篇、作者の
「あとがき」付き。作家の意図が知れるので、これは嬉しい。

血を分けた子ども/夕方と、朝と、夜と/近親者/話す音/交差点/
二つのエッセイ:前向きな脅迫観念/書くという激情
新作短編:恩赦/マーサ記

               


    

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