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Richard Bach  1936年米国イリノイ州生、元米空軍の戦闘機パイロット。除隊後、地方巡業の曲芸飛行家や整備士として働く。70年発表の「かもめのジョナサン」が世界的ベストセラーになる。

 
1.
かもめのジョナサン

2.海の救助隊−フェレット物語1−

3.嵐のなかのパイロット−フェレット物語2−

4.二匹は人気作家−フェレット物語3−

5.大女優の恋−フェレット物語4−

6.名探偵の大発見−フェレット物語5−

 


   

1.

●「かもめのジョナサン」● ★★
 
原題:"Jonathan Livingston Seagull"    訳:五木寛之

  

 
1970年発表

1974年06月
新潮社刊

1977年05月
新潮文庫
第63刷
2003年06月
(476円+税)

 

2008/02/23

 

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かつて「一世を風靡した」と言って過言ではない世界的ベストセラー作品。
フェレットの冒険を読んだのをきっかけに、さてどんな味わいだったろうかと再読してみました。

主人公は、かもめのジョナサン・リヴィングストン
他の仲間のかもめたちが餌を取ることだけに明け暮れているのと対照的に、より速く飛ぶことだけを願い、餌を取るのも放ったらかして飛ぶ練習に励んでいる。
しかし、そんな行動はかもめの掟破りだとばかりに、群れから追放されてしまう。
孤独なかもめとなりますが、やがてそんなジョナサンの前に、同じように見事な飛行をするかもめが姿を現します。
そして彼らに誘われ空の高みに昇ったジョナサンは、そこで同じような仲間達の中でさらに飛行技術を高めていく。
そして類稀な速さを身につけたジョナサンは、かつての仲間達の元に戻ることを決意する。戻ったもののジョナサンは以前と同じように仲間外れ扱いされますが、やがて彼と同じように速く飛びたいと願う若者たちを指導し、仲間を増やしていくというストーリィ。

より速く、そして尽きることのない高みを目指していくという姿勢は、パイロットならではのものと感じます。その点で、本作品にサン=テグジュペリに共通するものを見い出すのは私だけではないでしょう。
“かもめ”である故に目指したのは“飛ぶ”ことですが、人間に当てはめたらそれは何になることやら?
でもそれを具体的に言う必要はなく、“高み”を目指すというだけで充分だと思います。
その“高み”とは高邁な精神、理想の追求、ということでしょうから。

    

2.

●「フェレットの冒険1−海の救助隊−」● ★★
 
原題:"THE FERRET CHRONICLEST RESCUE FERRETS AT SEA"    訳:法村里絵

  

 
2002年発表

2008年01月
新潮社刊

(1200円+税)

2009年07月
新潮文庫化

  
2008/02/17

 
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“フェレット”は、ヨーロッパケナガイタチを家畜化したイタチ科の小動物で、体長は成体で35〜50cm、長くほっそりした身体に短い四肢、普通は白色。好奇心が強くて猫よりも人懐っこいということから、最近はペットとしても広く愛されているという。

本書はそのフェレットを主人公とした全5巻の冒険ものの第1巻で、動物たちを助けるという崇高な使命のため、自分の身を危険にさらして働く海難救助隊=“フェレット・レスキュー・サービス(FRS)”の活躍を描いたストーリィ。
人間の救助は人間のレスキュー隊が。そして動物たちを救助するのがFRSの任務、という次第。
幼い頃母親から読んでもらうレスキュー・フェレットの物語に心を躍らせたベサニーヴィンセントの姉弟は、長じて夢を叶え、FRSに入隊します。
そして高い気概と有能さを遺憾なく発揮したベサニーは、今はレゾルート号と4名のクルーを指揮するキャプテン。
そこにセレブなロック歌手兼フリーライターのクロエが取材のためベサニーのチームに加わります。

フェレットが主人公といってもファンタジーな冒険物語ではありません。海難救助隊の物語ですからそこはそれ、緊迫感も孕んで映画海猿と比べても遜色ありません。
でもそこには常に、人間の手に代わって前足を動かすフェレットの愛らしさがちらつきます。そこに本書の楽しさ、魅力があります。
子供が読んでも大人が読んでもハラハラドキドキ、でもフェレットは愛らしい、と思えるストーリィ。素敵な冒険物語です。

  

3.

●「フェレットの冒険2−嵐のなかのパイロット−」● ★★
 
原題:"THE FERRET CHRONICLESU AIR FERRETS ALOFT"   訳:法村里絵

  

 
2002年発表

2008年01月
新潮社刊

(1200円+税)

2009年07月
新潮文庫化

   
2008/02/17

   
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愛らしいフェレットが活躍する冒険物語の2巻目。
本巻は、空をまたにかけるパイロットのフェレットが主人公。
そして彼らを取り巻き、応援する存在として、小さな金色のヘリコプターに乗って飛び回る守護天使=エンゼル・フェレット・フェアリーが登場します。

主人公は、貨物輸送機のパイロット=ジャニーン。嵐を恐れず飛ぶことから、愛称ストーミィ
もう一方の主役は、大企業フェレフレンド・コーポレーションのチーフ・パイロットで最新機フェレジェットを操るストローブ
この2匹が出逢えれば、多くの動物達のために世界を変えることができる。・・・そのためにエンゼル・フェレットたちが2人の出逢いを作ろうと立てたのが“真夜中のスナック作戦”
そしてそのために奮闘するのが、新人エンゼル・フェレットのバクスターというのが、本巻の主要な顔ぶれです。

第1巻のように崇高な目的のために命を賭して働くフェレット、という訳でなく、2人の出逢いがどうして動物たちを救うことになるのか明瞭ではありません。そのため、第1巻目に比べると満足度は今ひとつ。
それでも、2人が出逢う機会を作るためエンゼル・フェレットたちが懸命に嵐を作って同じ空港に緊急着陸させようと奮闘する場面は見応えがあります。強烈な嵐に揉まれ、そのうえ輸送機に幾つものトラブルが発生するというのにもかかわらず、頑としてストーリィは飛び続けることを諦めようとしません。
片や懸命、片や頑固、この対照的な奮闘が繰り広げられるシーンは、本書中白眉と言っていい面白さ、愉快さ、楽しさが溢れる部分です。
さて、今後どんな風にフェレットの物語は展開していくのか? 第3巻目以降がとても楽しみです。

   

4.

●「二匹は人気作家フェレット物語3−」● ★★
 
原題:"THE FERRET CHRONICLESV WRITER FERRETS: CHASING THE MUSE" 訳:法村里絵

  

 
2002年発表

2009年08月
新潮文庫刊

(438円+税)

 

2009/08/28

 

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愛らしいフェレットが活躍する“フェレット物語”シリーズ、第3弾。
今回は歴史小説執筆に苦しむ作家フェレットが主人公です。

パジェロン・フェレット、苦労の甲斐あって児童文学作家としてデビュー。さらに、彼の作品を愛する美人で聡明なダニエルと出会って結ばれ、夫婦となる。
極めて幸せじゃないかと思えるのですが、児童文学作家で終わりたくない、歴史小説の名作を書き上げて名を挙げたいとパジェロンは執筆に奮闘するのですが、全く筆が運ばず、苦悩中。
一方、妻のダニエル、気まぐれで自分勝手な娘フェレットを主人公とする娯楽小説をふと書いたところ、これが大ヒットし、超人気作家になってしまう。
さあ、パジェロン、君はどうするのか。
二匹の作家フェレットを通して、作家とはどう作品を書くのか、ひいては仕事とは何か、幸せとは何か、を描いたストーリィ。

単純、しかも当然こうあって然るべきというストーリィ、しかも順調過ぎる展開と、人間が主人公だったら白けてしまうところではないかと思うのですが、愛らしいフェレットたちが主人公だから許せるのか、とても楽しい。
何が幸せかという本巻テーマも、愛らしいフェレットに言われると素直に頷ける気がします。
この“フェレット物語”、決してただ可愛らしいだけの作品ではないのです。お薦め。

嵐の中のパイロットに登場したストローブが、パジェロンの友人として、特別出演しています。

   

5.

●「大女優の恋フェレット物語4−」● ★★
 
原題:"THE FERRET CHRONICLESW RANCHER FERRETS ON THE RANGE" 訳:法村里絵

  

 
2003年発表

2009年09月
新潮文庫刊

(438円+税)

 

2009/09/19

 

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愛らしいフェレットが活躍する“フェレット物語”シリーズ、第4弾。
今回は牧場とハリウッドを舞台にしたラブストーリィ。

モンタナの高地で育った幼馴染の二匹、モンティ(モンゴメリ)シャイアン(ジャスミン)は、離れ離れになることはないと信じていた程仲が良い。
しかし長じて、フェレットの生き方を変えるような何かの一役を努めたいという使命感を抱いてシャイアンはハリウッドへ。そして女優として大成功。
一方、新種クローン羊のレインボーの養育と主とした「レインボー・シープ・リゾート&牧場労働者訓練センター」を立ち上げ、こちらも大成功。
お互いに相手を恋しく思いながら、現在の自分の立場、相手の立場を思いやる余りに一歩が踏み出せないままの二匹。さて、2匹の恋はどう成就するか、というストーリィ。

これまでの3作に比べると、物語の結末は最初から決まっているようなものなので、その分面白味は落ちますが、相手をあくまで尊重しつつという二匹の想いの深さは、やはり気持ちが好い。
また、暮らす場所としてモンティの牧場に魅せられ、大企業の有名な経理担当役員、有名レストランのシェフまで、その地位を捨ててこの牧場で働いている、というところも楽しい。

二匹は人気作家の主人公パジェロンが、作家を目指す少年として登場しています。

   

6.

●「名探偵の大発見フェレット物語5−」● 
 
原題:"THE FERRET CHRONICLESX            訳:法村里絵
     
THE LAST WAR DETECTIVE FERRETS AND THE CASE OF THE GOLDEN DEED"
 

  

 
2003年発表

2009年10月
新潮文庫刊
(400円+税)

  
2009/10/24

  
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愛らしいフェレットが活躍する“フェレット物語”シリーズ、第5弾、そして完結篇。

本篇の主人公は、明晰な頭脳と鋭い観察眼、そして不思議なサイキック・パワーで、どんな難事件も解決してきた名探偵シャムロック・フェレット
「シャムロック」という彼女の名前、「名探偵」という題名からして、秀麗なる謎解きストーリィを予想するのは当然というべきでしょう。
ところが、そんな私の予想と異なり、本格的推理小説とは違う方向のストーリィであったから、頭を抱えてしまう。
シャムロックが直面することになったのは、古代博物館で見かけた不思議な絵画がきっかけになった、フェレットの過去と未来に関する謎。
フェレットは何処から来たのか、フェレットが争い合うなんてことが起きるのか、どうすればフェレットの未来を救うことができるのか。

これまでの4巻と一変して、相当に抽象的。
全てをひっくるめた完結篇という趣向なのでしょうか、どうもちょっと・・・。

   


   

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