オイズル・アーヴァ・オウラヴスドッティル作品のページ


Audur Ava Olafsdottir  アイスランドの小説家、詩人、劇作家。レイキャビーク在住。国立アイルランド大学で歴史学と文学の学士号を取得した後、1982年からパリのパンテオン・ソルボンヌ大学で美術史を学ぶ。アイスランド大学で美術史・芸術論の教鞭を執り、1998年から作家活動を開始。2007年3作目の長篇である「花の子ども」にてアイスランド女性文学賞とDV文化賞、仏語翻訳版にて書店員が選ぶパージェ文学賞・ケベック書店員賞翻訳部門を受賞、北欧理事会文学賞にノミネートされ、国際的に注目される。16年5作目「痕」にてアイスランド書店員文学賞とアイスランド文学賞および北欧理事会文学賞を受賞。19年6作目となる「ミス・アイスランド」にてアシウランド書店員文学賞、仏語翻訳版にてメディシス賞外国小説部門を受賞。

※アイスランドでは姓はなく名前のみ。名前の後に父親(時に母親)の名前を反映した父称(母称)を用いるとのことです。息子の場合には○○「の息子」という意味で「s son」 娘の場合には「s dottir」となるそうです。したがって作者の名前は「オイズル」。

 


                          

「花の子ども ★★★
 原題:"Afleggjarinn"
       訳:神崎朗子




2009年発表

2021年04月
早川書房

(2100円+税)



2021/05/12



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主人公は22歳の青年、ロッビ。母親が遺したバラを持って、遠い他国の修道院にある庭園へ向けて旅立とうとしています。
父親は77歳と高齢、母親は2年前59歳で交通事故死、双子の弟ヨセフは自閉症のためコミュニティハウスで暮らしている。
そして、一度だけセックスした女性=
アンナが産んだ、まだ一歳にもならない女児フロウラ・ソウルがいる。

初めての旅。その冒頭からハプニング続き。
とはいえ、やっと辿り着いた山の上の修道院、何世紀にも亘る歴史をもつその庭園は今や世話する者もなく、絶滅寸前。
とりあえずロッビは修道院に留まり、庭園を元に戻すため働き始めます。
驚いたことにそこへ、
アンナが赤ん坊を連れて訪ねてきます。遺伝学の論文を書く等々に必要な一ヶ月の間、フロウラを預かって欲しいと。
この地で過ごすロッビにとっては、何もかも新しいことばかり。その意味で、一人の青年の冒険&成長物語と言えます。

赤ん坊の娘と、自分の娘を産んだとは他人と言うべき女性との共同生活。恋人の前に娘の存在があるとは、本来とは順番が逆ではないかというこの構図が面白い。
その上、故郷では料理をしたことのなかったロッビが、料理をして、赤ん坊の世話をすることを覚えていく。一方、アンナは大学院進学を目指して論文書きに集中。この関係も日本の常識とは男女の役割があべこべの様で、何やらとても新鮮。

この赤ん坊フロウラがとても良い子で魅力的なのです(実際こうは行かないよな、と思うくらい)。
その存在があるからか、この地の住民たちとの関係もとても居心地良さそうなのです。
そして、本作に登場する人物皆が、とても愛おしい。
 
主人公、アンナ、フロウラの関係を見ていると、男女の役割などどうあっても良いのではないか、社会が勝手に決めつける必要などどこにも無く、本人たちの事情に基づきいろいろな形があって良い筈、と考えさせられます。
なお、アイスランドはジェンダーギャップ率で11年連続首位なのだとか。
日本はもっと変わるべき。そう教えられたように感じます。
是非、お薦め。

               


    

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