ケイト・アトキンソン作品のページ


Kate Atkinson  1951年英国ヨーク生、ダンディー大学で英米文学を専攻。博士号取得後職業を転々とするが、その後母校の大学の英語教師。86年雑誌「ウーマンズ・オウン」の短篇コンペで優勝、93年イアン・セイント=ジェイムズ賞も受賞。95年作家デビュー作である「博物館の裏庭で」にてウィットブレッド文学賞を受賞。二度の結婚と離婚を経て現在二人の娘と共にエジンバラ在住。

 


    

●「博物館の裏庭で」● ★★        ウィットブレット文学賞
 原題:"TBhind the Scenes at the Museum"      訳:小野寺健




1995年発表

2008年08月
新潮社刊

(2500円+税)

 

2008/09/14

 

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曾祖母、祖母、母、主人公と、4世代に亘って女性、家族を描いた壮大な年代記。

ストーリィは、主人公ルビー・レノックスが胎児の内から語り出されます。家はイングランド北部のヨーク市でペット屋を営んでおり、兄弟姉妹の多い典型的な庶民家庭。
一口に年代記といっても、曾祖母から順々に語られるストーリィではありません。一応ルビーを主たる主人公としながらも自由自在、時に祖母ネル曾祖母アリス母バンティ、そして彼女等の姉妹と、主人公を入れ替えながら語られていきます。
その間には二度の世界大戦があり、出征した恋人や新婚の夫は戦死し、後には未婚の子を宿した娘が残り、その他の娘にしろ否応なく生き残った男性と結婚する他ない。
若い時にはそれなりに真面目だった青年も、結婚すると甲斐性のない亭主に成り下がり、女は亭主の世話、沢山の子供の世話にただ明け暮れるだけの人生を送るようになります。
その彼女たちにしても、初々しく健やかだった娘が、家事や子育てに追われれば同じように口喧しく、無愛想な中年女になってしまうと描いているところが秀逸です。

4世代の女性の半生が代わる代わる描かれていく内、時代・境遇は変わっても女たちが抱え込む苦労には何の変わりもない様子が浮かび上がってきます。
それでも女たちはしっかりと子供を産み育て、子孫を残し、一族の枝をイングランドに留まらず、アメリカ、オーストラリアへと広げていく。
ただ、同じように夫や子供たちのために苦労させられると言っても、時代が移ればやはり変わるところはあります。夫や子供たちの頸木から逃れようと思えば、曾祖母・祖母の時代には家から出奔するしかなかったものが、ルビーの代になれば離婚という選択肢を取ることが可能となっています。

こうして4世代に亘る女性たちの生き方を対比的に眺めることができるのは、彼女たちの半生が代わる代わる“今”という時間軸の中で描かれているから。
しかし、読んでいる途中は、目まぐるしく入れ替わるストーリィに五里霧中で付いていっただけ、というのが正直なところ。
4世代にわたる壮大なストーリィ構成の見事さ、本作品の素晴らしさが腑に落ちたのは、読み終わった後暫く経って振り返ったみてからのことです。
訳者の小野寺さんは女性版「戦争と平和」と言うべき作品と評していますが、私としては本書の読後感、「風と共に去りぬ」に通じるものを感じるなぁ。

  



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