2023年 仙人の会6月例会


日時:6月18日(日) 14:00~18:00

場所:法政大学92年館(大学院棟)2階201教室
 JR中央線・地下鉄南北線飯田橋あるいは市ヶ谷駅または  JR中央線・地下鉄南北線/有楽町線/東西線飯田橋駅下車、徒歩約10分


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発表者:渡邊泰輔(東京都立大学大学院、社会人類学教室、博士後期課程)

発表題目
資源化される統治の歴史ー現代台湾における社区営造の実践から  

発表要旨
 本発表では、現代の台湾において統治の歴史がどのように捉えなおされているかを、台中市・新社区における社区営造というまちづくり運動を視点に論じる。周知の通り台湾はかつて日本の植民地であり、その影響は生活様式や景観など様々な所に現れている。近年の台湾をフィールドとする日本の人類学者の間では、こうした影響を改めて捉えなおす歴史人類学の流れが生まれている。本発表もその流れの一部であるが、これまで注目されてこなかった台湾の社区営造の実践に着目する。
 社区営造とは、住民の主体性を強調した官民共同の文化事業一般を指す言葉である。活動自体は国民党期の1960年代まで遡るが、一般的には1980 年代の環境運動の流れを受け1990年代以降に隆盛した運動が想起される。なぜなら、李登輝政権が1994 年に社区営造を促進する「社区総体営造」政策を実施した際に、それまでの「上から下」の公共事業ではない「下から上」の文化事業への転換が強調されたからである。このように、社区営造は台湾の社会・政治状況と密接に関係している。
 本発表では、台中市・新社区にある日本統治時代に建設された灌漑インフラ、「白冷圳(はくれいしゅう)」を巡る社区営造の実践を追っていく。新社区は、もともとは原住民の狩猟場だったが、 18 世紀以後開拓が始まり、日本統治時代にサトウキビの養成所建設のために大規模な開発が行われ、現在まで続く集落の形成や区画整理が為された。開発の中心だった白冷圳は、戦後も使われ続けたが老朽化が問題となっていた。 1999 年に台湾中部を襲った未曾有の大地震・通称九二一地震は、白冷圳にも大ダメージを与えた。一時は白冷圳の廃棄も検討されたが、一部の住民がその文化的価値を訴え復旧運動を開始した。
白冷圳の復旧を目的とした社区営造だったが、活動を通して地域住民は土地の歴史、自らのルーツを知っていくことになった。白冷圳を文化遺産として登録しようとする動きも生まれ、近年では主任技師・磯田謙雄の出身地である石川県金沢市との交流も行っている。
本発表では、以上の流れを文献調査から明らかにした成果を提示する。フィールドワークをしていない以上、具体的な人間関係や実践に対する思いなどは不明だが、それは今後の研究課題としたい。


※ 当日はお茶代として200円いただきます。
例会終了後には、会場近くで懇親会を開催いたします。
みなさまのご参加を心よりお待ちしております。