日時:11月27日(日) 14:00~16:30
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発表者:山西 弘朗(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所ジュニア・フェロー)
発表題目
台湾先住民村落における災害復興に関する文化人類学的研究
発表要旨
本発表では、台湾南部に居住する先住民・ブヌンの災害復興を事例に、現代社会を生きる先住民が災害復興をとおして、どのように自らの民族意識や文化認識を形成し、実践してきたかを取り上げる。台湾社会において1980年代以降展開された民主化運動の高まりの影響を受ける形で、先住民の権利回復運動も盛り上がりを見せ、民主化後の台湾において先住民に関する法整備や政策が進められて、先住民文化の保護などさまざまな行政サービスも行われるようになってきた。しかしながら、先住民の中にも、都市化とともに就業や就学のために伝統的な村落を離れ、都市部で居住する割合が増加し、教育や宗教の影響により、先住民としての意識や価値観は多様化しつつある。このような状況の中、2009年8月に発生した台風による水害(八八水害)は、当該先住民の民族意識や文化に対する認識を揺るがすこととなった。また、民主化以降進められてきた先住民に対するさまざまな法整備や政策、それにともなう社会変化がどのように災害復興に影響を与えたのかを考察することを可能にした。
特に八八水害の復興政策の特徴は、被災地の安全評価と平地への移住政策、仮設住宅を建設せず直接復興住宅を建設したことである。しかし、先住民が平地へ移住することは、それまでの生活基盤を大きく揺るがし、ひいては先住民としての生活や文化の継承を困難にする危険性をはらんでいた。さらに中央政府が復興政策を実施する上で、宗教教団をはじめ民間団体からの義援金を活用したことで、移住するか否かの選択をめぐり先住民村落内での亀裂を生むだけでなく、居住地の分散、移住後の復興住宅での支援団体による宗教的介入など、問題を複雑化させる結果となった。もともとの山地にある村落で住み続けることとなった住民は、水害のリスクと隣り合わせの生活をすることになったが、先住民が自然災害とどのように向き合いってきたかを再び見つめなおす機会ともなっている。
本発表で取り上げる事例をとおして、これまでの災害研究の中でどのように位置づけ、文化人類学的災害研究がどのように新しい地平を切り拓くことかできるかについても考えたい。
※懇親会は予定しておりません。