日時:6月27日(日) 14:00~17:00
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発表者:内住 哲生(東京都立大学大学院)
発表題目
舞踊の場にみる参与の複層性:タイ北部リスの文化振興を事例に
発表要旨
本発表では、タイ北部先住民・リスの伝統舞踊を事例に、人々の舞踊への参与形態の変容について描写することを目的とする。従来新年祭などの祭礼の場で行われてきたリスの舞踊は、近年行われるようになった文化振興イベントにおいても行われるようになっており、人々の舞踊への参与に新たな状況が生じている。そこで、本発表では新年祭における舞踊の場と、文化振興イベントにおける舞踊の場の参与観察をもとに、両者を比較分析し、文化振興によって舞踊にどのような変容が生じているのかを論じる。
この分析にあたり、発表者は音楽・舞踊などのパフォーマンスへの参与を「一次的参与」、「二次的参与」という二層に区分する。ここで前者はパフォーマンスが行われる場に臨んでいること、後者はさらにパフォーマンスそのものの実践に加わり、身体的に関わることと定義する。パフォーマンスへの参与についての先行研究では、パフォーマンスの複雑性と二次的参与が可能となる者の範囲には相関性があることが論じられてきた。発表者はその視点を継承しつつも、二次的参与の前提にある一次的参与と合わせて分析することの重要性を強調する。なぜならば、一次的参与と二次的参与を可能にする条件は異なっているため、一方のみを強調してしまうとパフォーマンスへの人々の参与の在り方を単純化し、多様な側面を捨象することになってしまうためである。
新年祭と文化振興イベントの事例の比較から以下のことが明らかにされる。文化振興イベントの方が新年祭に比してより多様なアクターが参与し得るイベントになっており、一次的参与の幅は広まっている。一方で舞踊そのものへの身体的な関わり、すなわち二次的参与の側面に着目すると、新年祭の方がリス以外の者、舞踊に不慣れな者をも歓迎し、舞踊への参与に巻き込むような空気が存在している。
以上から、文化振興イベントにおける舞踊は、新年祭における舞踊と比して一次的参与の面ではその参与の層を広げているが、二次的参与の面では限定的になっていると論じ、パフォーマンスへの参与における複層性を描出する。
※懇親会は予定しておりません。