日時:5月19日(日) 14:00~18:00
場所:法政大学92年館(大学院棟) 2階201号室
JR中央線・地下鉄南北線飯田橋あるいは市ヶ谷駅または
JR中央線・地下鉄南北線/有楽町線/東西線飯田橋駅下車、徒歩約10分
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発表者:顔行一(首都大学東京大学院 博士後期課程)
発表題目
冷え性をめぐる医学言説に関する試論―身体と感覚の視点から
発表要旨
冷え性は日本において、特に女性がよく訴える、ありふれた悩みの一つであり、女性の三分の一は冷え性であるというような俗説すらある。歴史を遡ると、江戸時代以前から、日本人はすでに「冷え」に悩んでいた。江戸末期になると、「冷え」は伝統医学の理論における「瘀血」や「血」の不足といった病理によって説明されていた。しかし、日本では当たり前のようなこの日常的な病である冷え性は、欧米において、対応する概念が見当たらず、医学研究と治療の対象にもされていない。一方、現代日本では、伝統の漢方医学はともかく、生物医学においても、冷え性は紛れもない「病」として、治療と医学研究の対象とされていて、「自律神経失調」などの概念で解釈されている。つまり、現在の日本における冷え性は、伝統の医学知識と観念が明治時代以降の著しい西洋医学化の過程において、西洋から入ってきた新しい知識・観念と遭遇し、徐々に変えられ、構築されてきた日本独自の概念と言える。以上の背景において、本研究は次の設問を立てた。即ち、冷え性をめぐる医学知識が、日本近代において、いかに構築されてきたか、また、そのような構築の過程にはどのような社会的、文化的背景があるのか。本論は以の設問を回答するために、明治時代から1960年代までの冷え性をめぐる医学言説を主な分析方法とする。また、本論は「身体」と「感覚」を中心とする研究アプローチを取り、身体感覚と医学知識の相互作用の側面から議論を進めた。最後に、本研究は以下の結論を出した。冷え性をめぐる医学言説から、日本人の独特な健康に対する感覚の様式が見られる。この様式は、冷えの身体感覚と他の様々な身体感覚と結び付くことによって、全体的に体の「不足」と「滞り」を感じ取る、一種の感覚のネットワークである。そのような日本独特な身体感覚の様式は、冷え性をめぐる医学知識の歴史的、社会的構築に大きな影響を与えた。
※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を開催いたします。)