2019年 仙人の会4月例会


日時:4月14日(日)  14:00~18:00

場所:法政大学 92年館(大学院棟)201
 JR中央線・地下鉄南北線飯田橋あるいは市ヶ谷駅または  JR中央線・地下鉄南北線/有楽町線/東西線飯田橋駅下車、徒歩約10分
 現地へのアクセスについては、こちらをご覧ください。
   交通アクセス(市ケ谷)(Copyright (c) Hosei University)

発表者:大久保彩(東京大学大学院総合文化研究科 文化人類学コース)

発表題目
 「食べることの政治」へ向けて:日本のスローフード運動における味わい・知・共同性  

発表要旨
 本発表は日本のスローフード運動を事例として「食べることの政治」がいかに可能になるのかを検討するものである。
「我々は何を、いかに食べるべきか」という問いは現代日本においてますます肝要なものとなっている。生活を支える食システムは近代化・工業化にともなって複雑さを増し、日常的にはほとんど不可視なものとなっているが、食品汚染や環境破壊、さらには原発事故といった危機的局面が訪れるたび、その脆弱性や不公正を露わにしてきた。
 こうした社会状況に対し、「食の政治(フードポリティクス)」の議論は安全性・公正性・持続可能性をそなえる食システムがいかに可能になるかを問うてきた。しかし既存の議論では個々の食実践はシステムやイデオロギーに従属的なものとして扱われ、食べ手の行為主体性や創造性は看過されてきた。それに対し本発表では、食実践のあり方を具体的なつながりの中で、つまり社会性・身体性に根ざした形で問う必要性を主張し、食べる経験そのものを主題化する「食べることの政治」を提案する。
 事例とするスローフード運動はイタリア発の国際的食運動であり、発表者は東京と神戸の支部を中心にフィールド調査を行ってきた。近代的・工業的食システムへの批判から始まったスローフード運動であるが、参加者らの間にはっきりと共有されるイデオロギーは見られない。「スローフード的なもの」はむしろ具体的な人とモノ、人と人とが紡ぐ関係性において見出される。それは ①食べ物それ自体よりも食べ物と人とのつながりに焦点を当てる「味わう技法」、②「消費者」と「生産者」、「東京」と「地方」、「NPO 」と「行政」「資本」といった枠組みを越える人びとの協働である。
 本発表ではモルの「味わう身体」研究や「生」の人類学の議論に依拠しつつ、スローフードの場において人びとが他者・自然・社会環境との別様なつながりを発見・創造していくプロセスについて考察する。

※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を開催いたします。)