2018年 仙人の会4月例会


日時:5月20日(日) 14:00~18:00

場所:法政大学(予定)

発表者:鍋倉咲希(立教大学大学院)

発表題目
 生活と観光の融解―マレーシア・ジョージタウンにおける文化遺産観光とストリートアート  

要旨
現代において「観光」という現象はあらゆる社会的な行為や実践のなかに深く入り込んでいる。日本においても「観光立国」や「観光まちづくり」などの言葉が政策として聞かれるようになって久しく、観光は地域の経済的・文化的発展に寄与するものとみなされている。また、日常生活のレベルで言うなら、人々はテーマ化されたレストランやショッピングモールへ足を運び、写真をSNSにアップロードするなどして、常に「観光的」な生活を送っている。観光社会学者のジョン・アーリが言うように、いまや社会そのものが「観光化」しつつあるのである。
 しかしながら、観光に焦点をあてた従来の人文社会科学的な研究は、観光を固定された「地域社会」や人々の「生活」の外部にあるものとして扱ってきた。特に特定の地域を対象としてきた研究は、観光を地域社会の生活に対立的なものとして描くことも少なくない。本発表はこれまで観光が論じられてきた枠組みを捉えなおし、観光とともにある人々の生活実践を明らかにする。
 本発表が対象とするのは、マレーシア・ペナン州の州都であり、世界文化遺産に登録されているジョージタウンのストリートアート観光である。ジョージタウンの世界遺産の町並みには、観光産業の発展とともにストリートアートが描かれるようになっている。ストリートアートは2012年に開催されたアートイベントをきっかけに描かれ、その後は観光産業に就く事業者たちの手により、作品が設置されている。2015年以降はストリートアートを求める観光客の増加にともない、作品数も爆発的に増加し、ジョージタウンはいまや「世界遺産の町」としてよりも、アート観光地としての名を強めている。
 本発表は、観光産業に従事する地域住民の立場を明らかにしたうえで、ジョージタウンをとりまく2つの制度(西欧中心に発展してきた近代的なアート制度と、世界遺産を主軸とする文化遺産制度)の動態を論じる。これを通じて、観光が地域社会に与える影響を分析するための新たな枠組みを提示する。

※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を開催いたします。)