2017年 仙人の会9月例会


日時:9月17日(日)  14:00〜18:00

場所:法政大学大学院棟(旧92年館)4階401号室
 JR中央線・地下鉄南北線飯田橋あるいは市ヶ谷駅または  JR中央線・地下鉄南北線/有楽町線/東西線飯田橋駅下車、徒歩約10分
 現地へのアクセスについては、こちらをご覧ください。
   交通アクセス(市ケ谷)(Copyright (c) Hosei University)

発表者:汪 牧耘氏(法政大学大学院国際文化研究科)

発表題目
 歴史と資源化プロセス―中国貴州省石門坎の観光開発を中心に  

発表要旨
 2016 年、中国貴州省威寧県の石門郷は、省内の極度の貧困地域として指定され、貧困撲滅政策の対象になった。政策の一環として観光開発も進められている。本研究で取り上げる石門郷の石門坎は、宣教師とミャオ族と関わる歴史で有名になった場所であり、今日の観光開発の中心地である。一方で、石門坎はキリスト教との関わりと極度の貧困に陥ったことで、センシティブな歴史を抱える場所としても知られている。

 なぜ今になって政府は積極的に石門坎を観光地として開発し、国の内外からの来訪者を歓迎しようとするようになったのか。本研究は、石門坎という中国の一地域社会の事例を通して、歴史をめぐる様々な主体の動きを遡ることと、「現在進行形」の観光地化をめぐるやり取りを描くことによって、観光資源化された結果だけからは見えてこない、文化の資源化の一側面を呈示する。

 石門坎に関する先行研究は、20 世紀初めの宣教師とミャオ族に関するものと、改革開放後の貧困と教育問題に関するものに限られている。石門坎が観光地化にいたる道とその現状を把握するために、筆者は石門坎を中心に、@ 2016年8月8日から8月24日までと、A2017年2月12日から3月9日までの2 回にわたって現地でフィールドワークを行い、政府職員、観光業者、地元住民などといった様々なアクターから聞き取り調査を行った。その調査結果から、以下のようなことが分かった。

 改革開放以降、石門坎に最初にやってきたのは、その地の歴史に惹かれた人びと、特に教育や宗教関係の知識人であった。1990年代に入ると、貧困問題に注目する NGO 、「聖地巡礼」のキリスト教徒、または石門坎の価値を社会へ広げようとする活動家の来訪が多くなってきた。石門坎が有名になるとともに、その歴史・文化的価値に対する解釈は多様になっている。社会的関心はインフラ整備のような物理的な変化だけでなく、地元住民の意識にも影響を及ぼした。そうした民間の動きに対して、政府も動き出している。特に 2006年以降、石門坎の歴史・文化的価値を積極的に宣伝する動きも見られるようになっている。2015 年、石門坎に投入された政府の資金は過去最高だったという。2017 年に始まってから、観光開発が本格的になっている。政府、観光業者による一連の議論を通して、観光における脱宗教化がみられる。

※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を開催いたします。)