2017年 仙人の会1月例会


日時:1月8日(日)  14:00〜18:00頃

場所:東京学芸大学 二十周年記念飯島会館1階 第三会議室
JR中央線武蔵小金井駅北口から京王バス「小平団地」行き(武41系統)に乗り、5分ほどで 「学芸大正門」に着きますので、そこで下車します。セブンイレブン脇の並木道を北上す ると、学芸大学の正門があります。そこを入ってすぐ左側に木立の中に2階建ての建物が あります(守衛所の向かい)。そこが二十周年記念飯島会館です。第三会議室はその1階で す。

発表者:日下部 啓子氏(首都大学東京大学院社会人類学 博士後期課程)

発表題目
恥を包む布―インドネシア、タナ・トラジャ県シンブアンにおけるサルンをめぐる技術実践と生活世界―

要旨
 調査地、インドネシア、南スラウェシ州タナ・トラジャ県シンブアン郡は、県の中心部から険しい渓谷によって隔てられ、長年「辺境の地」に甘んじてきた。しかし、 1990 年代ローカル市場への化学繊維の流入によって、この地域の織物生産は大きく転換した。それは、在来の腰機技術による化学繊維を用いたサルン生産である。サルン( *sarung* )すなわち腰衣は筒状のスカートを意味し、東南アジアに分布する伝統的な衣装形式の一つである。本発表の目的は、現代この地域で展開する織物技術実践とサルンを用いる文化、さらにそれらを包む住民の生活世界を描出することにある。「恥を包む」あるいは「サンボアン・シリ」は、シンブアンの人々が尊重する精神的態度を表現する言葉である。
 はじめに、南スラウェシ州山地トラジャ人の織物生産を概観すると、北トラジャ県では、観光客の訪れる「織りの村」サッダン地域で、機織りは今日まで持続してきた。一方、南のタナ・トラジャ県では、戦後急速に村落の機織りは衰退してしまった。ただ、周縁地域シンブアン郡においてのみ、自給のための布生産が持続してきた。ところが、ここ数年都市近郊において、北からの技術移転による織物生産再生の動向が見られるが、これについては別稿に譲る。
 本発表では、この地域で近年展開する技術実践において、素材の化学繊維(ポリエステル糸及びアクリル糸)への転換と、サルン生産への一極化に着目し、次に、その結果としての、村落生活におけるサルンの大衆化と市場商品化を描き出す。この地域では、サルンは水牛・豚、米のように、儀礼慣行として交換されるモノではない。だが、サルンは様々な仕方と場所で身体に纏われ、あるいは「尊敬」のメタファーとして贈られて、多様な価値を生み出す。一方、余剰のサルンは、商品として移動交易商人によって隣接する地域へ運ばれる。だが、インフラの立ち遅れと、織物活動の他の生業(農耕とコーヒー栽培)及び儀礼活動に対する従属的な位置は、シンブアンの織物生産を商品生産へと大きくシフトすることを押し留めている。
 本発表では、このような地域共同体におけるサルンをめぐる技術実践と、それと合い交える生活世界への民族誌的なアプローチを試みる。
 

※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を予定しております。)