日時:12月20日(日) 14:00〜
場所:東京学芸大学 二十周年記念飯島会館1階第3会議室
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発表者:戴 寧氏(首都大学東京大学院・博士後期課程)
発表題目
日中国際児が背負う二重性に関する研究―国際結婚家庭に生まれた子どもの自己形成プロセスを事例に
要旨
本発表の目的は、日本生まれ日本育ちの日中国際児の内面に着目し、かれらが日本と中国という異なる文化的背景をもつ両親のもとで育ったがゆえに、その双方から影響を受けていることを示し、その環境のなかで発揮されるかれらの主体性や能動性を考察することにある。
対象となるのは、複数の文化が混在する環境(国際結婚家庭)で育った国際児(通称ハーフ)である。ここでいう国際結婚家庭とは、「国際結婚(または異文化結婚)」によってできた家族、国籍の異なる同棲・結婚・養子縁組によって生活を共にすることになった家族であり、「国際児」とは国籍や民族が異なる男女の間に生まれた子どもを指す。異なる文化的背景、それに応じた異なる教育観を持つ親のもとで国際児は、いかなる影響を受け、「社会化」されていくのか、またそれに対して、如何に受け止め、かつ自己を確立していくのか。これらを本研究の課題としながら、国際児である個々人の「内面」に焦点を当てる。
国際児は外国からやってきた移民でも、「純粋」な日本人でもない、曖昧な「境界空間」に位置付けられ、社会構成員をなす一人の人間である。しかし、同時に親の文化をひきずりながら、自ら居住する社会のなかで主体的に自己を形成する社会的存在でもある。それに加えて、国際児特有の問題として、親同士の教育方針が一致しない場合があるということが挙げられる。両親それぞれの教育方針それ自体も、国内外の政治・経済・社会状況や周囲の親族との変化を背景に常に変容の途上にあることが、この問題をより複雑なものとしている。
この点を考えるならば、子どもたちの自己形成は、一般的な日本人家族で育った子どものそれ以上に、複雑で動態的な問題であり、その実態を明らかにすることはかれらのことを理解するうえで必要不可欠であろう。
国際結婚家庭による「国際児」の数は以前よりもかなり増加してきた。しかし、これまで、「国際児」をめぐる研究は、統計資料などを利用した量的データをもとにした研究が主流であり、フィールドワークを通してかれら実態を明らかにするような人類学的な研究はほとんど行われてこなかった。「国際児」という境界に生きる子供たちはまさにその「境界性」ゆえに、簡単に数値化できない、複雑なアイデンティティを持つと言える。
本発表で用いる資料は、2013年7月〜2014年11月までの計一年間にわたり実施した臨地調査から得られるものである。具体的には、発表者は両親の教育戦略に着目し、日々の生活のなかで父親と母親が考える教育方針やしつけなどが具体的にどのように行われ、やりとりされているのか、そしてそれが子どもたちの自己形成にどのように影響を与えているのかを観察する。
国際児たちは、親の教育方針に影響を受けるけれども、そのすべてを受動的に受け入れているわけでもなければ、反対にそこから完全に自由にアイデンティティを作り上げるわけでもないことを実証的に論じる。親の教育戦略が国際児のアイデンティティ形成に及ぼす影響を過度に強調することは、子どもたち自身の戦略や主体性・能動性を軽視することになる。日中国際児は、両親のどちらか一方のアイデンティティを受動的に変容したり、それに同化するのはなく、自らの置かれた日中文化の混淆状況を能動的・主体的に肯定的なものとしてあるいはメリットとして解釈し直したり、変化させたりしながら、「社会的資源」として戦略的に利用しているのである。
キーワード:日中国際結婚、国際児、資源、能動性/主体性
※当日は資料・お茶代として200円いただきます。
(例会終了後には、会場近くで懇親会を予定しております。)